小説トップページへ戻る 




「弟以上、恋人未満。」    Written by; Tamaco Akitsushima

                  10 競技のゆくえ。

 100m自由形、200m自由形。そして、400mリレー。
累のエントリーしている種目。

多恵が 顧問の女教師を呼びに行き、ミーティングの時間は 累の応急処置の時間に
変わった。
重量のある大きなものが、相当の高さから落下してきたのだ。その角は直線的に皮膚を
裂いた。
累が あたしをかばってくれなければ、あれは あたしの頭上に落ちていた。

もう 死にたかった。
この世から 消えてなくなってしまいたかった。
あたしはただ、泣く以外に 何も出来なかった。

人目につきにくい場所で 先生はふくらはぎのやや上、止血点を圧迫して 手際よく止血
し、アルコール消毒を終えると テーピングした。
「大丈夫、いけます」
累が 女教師の目を真っ直ぐに見て はっきりとそう告げる。それから彼を取り囲んでいた、
心配げな主将や、マネージャーや、他の部員達を見回すと、微笑い掛けた。
「…ホントに大丈夫、このままいけるから。全然 問題ナシ、記録狙うよ」
裂傷はかなりの長さに渡って彼の皮膚を切り裂いていたけれど、幸い深くはないみたい
だった。テーピングで止血出来る程度で何とか事無きを得た。
もう ぐずぐずしている時間はなかった。すぐにでも移動しないといけない。
水泳部員達から少し離れたところに 縮こまるように座り込み、あたしは抱えた膝に 顔を
うずめていた。あたしの膝頭は、累が 咄嗟にかばうようにして押し倒したせいで、両足とも
少しすり傷になって血が滲んでいた。…だけど、これくらい、累の負った傷に比べれば嫌に
なるほど 些細な傷。ジンジン痛むけれど。
罪悪感に押し潰されそうで、あたしは どうしても目を開けられなかった。
とても合わせるカオなんて なかったから。
「─────…、」
誰かの手が あたしの頭を撫でて、すぐに離れて行った。…顔を上げなくても それは累だと
判った。
「ちゃんと見れば」
今度は アイドルみたいな女の子っぽくて高い声が降って来て、仕方なく 頭を起こした。
険を含む声の主は もちろん、多恵だった。
「─────ここまで来たんだから、ちゃんと応援してあげれば」
多恵の目は、やっぱり怒ってた。
あたしは 恥ずかしさと情けなさと…申し訳なさで いっぱいだった。
だって あたしは今日、ここに来るまで 累の出場種目さえ知らなかったんだ。
それくらい、彼の事を ちゃんと知ろうとしていなかった。
自分の事ばっかり。ねだってばっかり。いつもいつも。

 累の脚の白いテーピングは、真夏の屋外プールの白いコンクリートに反射して、やたらと
目立った。右足首から膝辺りまで。まるで あたしを責めているみたいに。
いつもの累のギャラリーの女の子達も 集まっていた。
今、プールサイドに立つ彼の 刺すような眼差しは 怖いほど真剣で、視線だけで 人を
殺せそうだった。
そんな横顔は、いつもの柔和な彼とは 別人みたい。
─────…胸は 痛いほど締め付けられた。
彼を好きだと自覚すればするほど、自分がすっごく ダメで惨めに思えた。
父と母の姿も遠くに見つけたけれど、今の自分のカオを 絶対に見られたくなくて、見つか
らないように人ごみに隠れるようにして 累を目で追う。
結局、両手の中にイルカを握り締めたまま、あたしは祈るようにして 彼を食い入るように
見つめ続けた。
 あたしに心の準備もさせずに、彼は水に飛び込む。9レーンあるプール。
泳いでいる姿は、この位置からじゃ 全然見えなかった。…だから あたしは目を瞑り、心の
中で 彼が誰よりも速く泳いでいるシーンを想像した。
2位を大きく引き離して Uターンして…。いつか見たように、彼は水を味方につけて。
滑るように、水が 彼のために道を空けるみたいに。鮮やかで狂いのないフォーム、無駄の
無い泳ぎ。

累、ごめんね。
ごめんなさい………、あたし 恋人どころか姉失格だよ、家族失格。
累の足 引っ張ってばかり。
こんなのダメだよ、あたし 累の傍に居ないほうがいい。
そしたら きっと累は、何もかもうまくいってた。
ごめんなさい…。

ワァッと ひときわ高い歓声が上がった。
「─────…大会新が 出たって!」
周囲に立つ人々も、口々に興奮を抑えきれない様子で ザワめきたっている。
「えっ、…えっ、もしかして…っ、」
─────予感は的中…!それは累のようだった。100m自由型予選。
嘘…!信じられない…っ!
状況が まだよく把握できないまま、あたしは必死に 背伸びをしていた。
プールサイドの様子が見えない。
累の応援団のほうを見ると、飛び上がってはしゃいでいる。…間違いないんだ、累…ッ!


 地区大会は終わり、団体戦では あまり好成績は残せなかったものの、累と主将だけは
自己記録を更新、予選通過で県大会へ。
誰よりも、あたし自身が それを知ってホッとしていた。
累は 大会新記録を塗り替えた最初の100mはともかく、200m、その後のリレーと、かなり
タイムを落としてしまった。だけどあたしは ひとまず胸を撫で下ろしていた。
─────よかった………。ケガのせいで もしも累が実力を出せなかったら…、あたし
マジで 死んでお詫びしなきゃ 気が済まないところだった。せめて 最初に泳いだ分だけで
も、彼がちゃんと記録出せて よかったぁ…、もうそれだけで どれだけ救われる事か…。

…もう、いい。
あたし、これで十分だ。高望みはしない。
累が元気で居てくれて、微笑って過ごしてくれるなら、あたしは累の世界の外でいいよ。
累に絶対 迷惑掛けない位置で、そっと彼の事を応援する。
…だって嫌いになんてなれないから。それはきっと、どんなに頑張ったってムリだから。
弟になった彼とは、一生縁が切れない。…だったら せめて頑張って 「いい姉」 になろう。
最初からあたしが累の彼女だなんて、考えてみればそれ自体が ムリありすぎたと思うよ。
…累にもっと優しくして欲しくて、恨んで拗ねて…、だけど彼の彼女だった一週間のほう
が、夢だったんじゃないかなぁ…。
そう思ったら、何だかお腹の底から大きくため息をつく事が出来た。
累、ありがとね。あたし、少しでもいい姉になるよ───…。

 「ミーティング行かなきゃいけないから あんまり時間ないけど、まだ話 終わってなかった
から。」
大会が終了する間近、多恵が そう言って再び近付いてきた。
「……………………。」
あたしにはもう、話す事なんて 何も残っていなかったけれど。大人しく彼女の言う通りに
した。
…何だかホッと気が抜けたせいか、心がガランと抜け殻になった感じがする。
体育館の入り口向かい、クラブハウスの連立する場所に あたしは居た。次から次へと、
他校の生徒達が 帰り支度を終え、荷物を持って出てくる。…主将や累の応援団の
女の子達も、一言彼らに 「おめでとう」 が言いたくて、残ってそわそわと浮き足立っている。
「…あたしは先輩が好き。」
多恵は手持ち無沙汰に 片腕をやっぱりさするようにしながら、うつむいてそう告げた。
こちらを見ず、クラブハウスの脇に立っている 桜の樹の根っこ辺りを見つめて。
夕刻だというのに、まだ真っ昼間の香りを残す 青い空。入道雲。桜の葉は 快適そうに
濃緑色を揺らしている。
多恵のそんな、落ち着かないような横顔や 何度も瞬きを繰り返しているまつ毛は、すごく
綺麗だった。
肩に付く長さの、涼しげなストレートの髪が揺れているのも。髪の隙間から 頬や耳たぶが
覗くのも。
白いTシャツの色が眩しすぎて、目に刺さる。…ヤバい、また 涙が出そう。
「───…先輩にとって、あなたって…あたしから見れば、ただ先輩の人生を邪魔してる
人にしか見えない。」
ドアの向こうからドヤドヤと くぐもった笑い声やノイズが響き、うちの高校の水泳部員達が
顔を覗かせた。
「キャー !! お疲れ様っ」
途端に響く、女の子達の声が 彼ら部員を取り巻く。
「みなさんに差し入れですーっ、食べて下さーいっ」
彼女たちは 累だけでなく部員みんなの足を止めて、ワイワイと騒ぎ出した。
多恵も チラリと後方に視線を送った。そして すぐに無表情のまま、こちらを向きなおした。
「───…っ………、………」
多恵の前でなんて、悔しすぎるから 絶対泣きたくなかったのに。
あたしは完全に 敗北していた。
立ったまま、溢れる涙を どうする事も出来なくて、子供のように肩を震わせ、うつむいた。
ギュッとつぶった目からは、ポタポタと涙が落ちる。多恵に こんな無様な顔を見られたく
なくて、腕で顔を覆った。
「…っく、………っ…、」
ただ嗚咽を漏らしているあたしに、追い討ちみたいに 多恵は確認する。
「…もう先輩に これ以上、迷惑掛けないで欲しいんです。」
「─────…っ、…っぇ…っ、…うっ…」
「───…言ってる意味、分かりますよね…」
返事をせかしてくる多恵。
あたしの握り締めた手の中には、もうすっかり体温と同化した イルカ。
その石だけが、今のあたしの味方みたいに そこに居て、静かに慰めてくれていた。
「じゃあ気を付けて。…ありがとう、オレ達 ミーティングあるから」
少し離れたところに居る累の声が 耳に入る。
「はぁーい!次も 応援に行きますからーっ」
「ケガ、お大事にー!」
口々に励ましの言葉を告げ、彼に手を振りながら 弾む足取りで去って行く彼女達の
後ろ姿は、見なくても目に浮かぶ。
───…判る、判ってる、多恵の言いたい事は。
あたしだって そんな事、嫌になるくらい 今日一日考えてた…っ。
だけど、追い詰めないでよっ。
「あたしだってっ、判ってるもん…っ…、判ってるからもう…、言わ、ないでよ…っ、」
しゃくりあげてしまうから、うまく言葉が紡げない。
「約束して欲しいんです、…次の県大会も こんな事になっちゃったら───…、」
「判って、るって、言ってんじゃんっ…!もう 迷惑っ、掛けないっ…、次の大会もっ、練習
もっ、応援に行かないから…っ!」
─────そうだよっ、あたしはいい姉を目指すの!さっきそう決めたの!
「ホントですよね?」
「…っるさいなぁ…っ!行かないったら 行かないっ !!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、あたしは 多恵に怒鳴ってた。
「─────…コラ、ケンカしない ケンカしない」
「 ! 」
目を開けた視界の向こう、涙でくぐもった先に 累が居た。
「……………っ…」
あたしと多恵の間に割って入る。
あたしは後ずさり、累から少し離れたプレハブの壁際に 再び小さく膝を抱えて座り込ん
だ。多恵はその場にそのままバツが悪そうな顔して やはりこちらを見ず 立ち尽くしていた。
もうやだ…っ。
何もかもがヤだっ、…惨めだよ…。
累にも 絶対 泣き顔を見られたくなくて、また顔を 立て膝にうずめる。そしたら頭の上に、
コンコンって 硬いものが2度当たった。
仕方なく見上げると、眉間にキャンディーを差し出された。
チュッパチャップス。直径2cmほどの真ん丸いキャンディーには、10cm足らずの細い棒が
付いている。
差し出してるのは 累の手。
いきなり、これ何なワケ ?! ワッケ分かんないよっ…。
すごすごと受け取ると、彼はもう一本を 多恵にも差し出した。
まだコンビニの袋一杯分、累はその手に スナック菓子を持っている。…さっきのギャラリーの
女の子達が、彼にプレゼントしたもののようだった。
多恵も その場で煮え切らない顔したまま、チュッパチャップスを受け取った。
あたしはする事もなく、けど 累や水泳部のみんなが立ち去るまで 起き上がれず、仕方が
無いから座り込んだまま チュッパチャップスのフィルムを剥いた。
………暑さのせいで フィルムがキャンディーにくっついてしまってて、はがれない。
「─────…、」
四苦八苦していると、累があたしの隣りに脚を投げ出して 腰を降ろした。
ガサリ、と、コンビニの袋の音。…反対側でドサリと バッグの地面に着く音。
「……………、」
涙に充血したままの瞳で、チラリと彼のほうを盗み見ると、累は壁にもたれ、こちらを見て
いて 小さく微笑った。
「…累、これあげる…ちょっと持ってて」
あたしは拗ねた声で 手の中にあったピンク色のイルカを彼に渡し、その手の甲で目尻の
涙を一回払うと、キャンディーのフィルムに視線を戻した。
そのまま再び 四苦八苦していたら、笑顔に こめかみ辺りを 軽く小突かれた。
「……………………。」
あたしは累のほうを見れない。
累の視線は、あたしの頬に突き刺さってる。
何なのよ…っ。向こうへ行ってよ、あたし今すっごく落ち込んでて、こんな無様な赤い目も
見られたくないよ…っ。
早く向こうへ行ってったら…!お願い !!
仕方がないから、拗ねたような唇のまま、あたしは心の中で「累、100m大会新、おめでと
う」って告げた。口には出せなかった。それに、絶対に目の前のキャンディーから、視線を
移せなかった。
累の手は、また小さな子供にそうするみたいに、あたしの髪をぐしゃぐしゃってかき撫でた。
やだもう…っ。また目頭が熱くなる。…累の手が、あたしの頭を彼のほうに引き寄せる。
「─────………。」
あたしはそれでもまだ意地になって、涙の溜まった目のまま、キャンディーに意識と視線を
集中させる。
多恵が少し向こうで背中を向けたのが 目の端に映った。


 その後、累達はミーティングと称した打ち上げのために 部員全員でどこかへ場所を移し
てしまったため、あたしは 初めて訪れた見知らぬ高校から、独りで帰った。
途中ケータイが鳴り、出てみると お母さんからだった。
「あんた今 どこに居るの ?! 結局 応援には行かなかったの ?!」
お母さん達 今からどこかで夕食食べて帰るけど、あんたも来るの?
────そんな内容の電話に、あたしは 「行かない」 と断り、途中でお弁当を買って、
帰宅すると それを食べた。

ヘンな感覚だった。…落ち着かないような、ヘンに疲れているような。
考えてみれば、今日は 色んな事がありすぎた日だった。
これ以上無いほどの落ち込みと、これ以上無いほどの安堵や、飛び跳ねずに居られない
興奮と。…ハラハラ、恐怖、地獄の底の苦しみ───…どうしようもなく 小さくて役立た
ずな、いいとこなしの自分。累の脚に流れてた、大量の赤。絵の具みたいな色だった。

ガラリと静まり返ったダイニングで 一人でお弁当を食べながら リモコンのスイッチを押す。
遠く離れたリビングのTVからは、笑い声が雑然と溢れ出す。
いつもはけっこう好きな、バラエティ番組の 笑い声。
だけど今は、耳を素通り。
再び リモコンをオフにして。ダイニングテーブルの上に突っ伏し、ため息をついた。

累が好き。
そう思っただけで、涙が出る…。

頭からすっぽり 黒い布を被って、誰にも見つからないほら穴で うずくまってしまいたい心境
だった。
だから あたしはそうした。
まだ早い時間なのに 寝支度をして2階の自室に上がり、ベッドの中、さっさと上掛けを
被って丸まった。

 ケータイの着信音。ベッドの中に それを引きこんで答える。
「───…はい」
ワカからだった。
「あんた昨日、酔っ払って グデングデンだったみたいだねェー?」
「 ?! 」
遠慮のかけらも無い、笑い声。
「フフフっ、瑞香っ、愛されてんじゃーん」
「…ハァッ ?!」
「弟クンに」
「……………………はぁ。」
「何よ、その つまんなさそうな声。テンション ひくっ」
「───…ごめん、ワカ。今日あたし 体調 超 悪いんだよ」
ワカは電話の向こうで、また 声高にあたしを笑いとばした。
「バッカー!この酔っ払いーっ!飲めないクセに 飲むからだよーっ」
「…いいじゃん、あたしにも色々あるんだから…っ。放っといて。」
「───…てかさ、瑞香。」
「…え?」
「………あの弟クン、絶対 あんたに気があるよ」
「…っ…、」
なっ、なによ いきなり…っ。
「その中学ん時の同級生クンも いいかもだけどさぁー、ちゃんと話しした?弟クンと」
「……………………。」
「大丈夫だよ、ちゃんと話してみなって。…あんたってさぁ、すぐひねくれた態度取るから
なぁー。ホントはすっごく好きなクセに 『それほどでも?』 みたいな態度とかさ。」
「……………………。」
「───…あたし、片桐 累の事 あんま知らないけどさ、あいつは ヤリ逃げするような男
には見えないよ。あいつモテるみたいだから、とりあえず手近で済ませた、とも思えないし?
もし仮にあいつが ヤリ逃げするキャラだとしたって、選べる立場の男がさー、いくらなんでも
戸籍上の義理の姉相手にそれはさ。さすがに よっぽどのバカ以外は そんな事しないで
しょう?」 …って事はさ、裏を返せば、それくらいあいつは マジだったんじゃないのかな?
「……………………。」
ワカの声は、冗談っぽいライトテイストだったけれど、裏腹に ワカっぽくないマジメなセリフ
だった。
「まぁ、事情は知らないけど 瑞香、十中八九、あんたが悪いねっ!」
ワカは事情も知らないクセに そう断定して、また あたしを笑い飛ばした。
「けど 昨日の夜のあいつの電話の声は、ちょっと瑞香に聞かせてやりたかったよ。…あれ
には かなりヤラれたなー、あたしの中にも乙女な部分は残ってたんだー、って 確認させ
られた!」
「…何それ」
「なんつーか 切ない気分にさせられる?それくらい乙女心くすぐり系だね、あいつは!」
「………ふーん………。何か よく分かんないな」
ワカがあたしのリアクションを 鋭くチェックした。
「それだよそれッ!何でそこで そんな可愛げの無い ひねくれた態度取んのっ!…それで
あんた相手の自信を奪ったんだよ」
ギクリと心臓が凍る。…もう何も言い返せなくなる。

───…累の自信が奪われる?あたしのセリフごときに?
あっりえない!
「……………………。」
電話を切った後も、一人上掛けの中で 考え込んでしまった。
でも………。
累、疲れた、って 言ってたもんね…。あたしに…。
やっぱ相当 悪い気分にさせてたんだよね、あたし───…。
今日の朝の、岩田 多恵に連発された 「先輩に迷惑を掛けないで!」 という言葉が また
蘇ってきた。
図星って、指されると この上なく痛い。激痛なんてもんじゃない、激震だ。稲妻が身体を
真っ二つに割るほどの。

…あ。お母さん達に続いて、今 累が帰ってきた。…玄関を開ける音。
「…お前 今日、脚をどうしたんだ ?!」
玄関口のやり取り。開口一番、お父さんの大きな声は ここまで聞こえた。…息を止めて
聞き耳を立ててみるけど、累の返事は くぐもっていて聞こえない。
だけど お父さんがまた、「県大会までには直るさ」 と 明るく励ましたのだけは聞こえた。
今度は お母さんの声が聞こえる。
「…え?瑞香?部屋に籠もってるんじゃない…?ごめんね 累くん、あの子ったら…ホント
にもうっ。」
あたしは 累が2階に上がってきたら、廊下に出て ちゃんと謝るべきか、それともこのまま
ベッドに籠もり続けるべきかを 真剣に悩んだ。
…けれど なかなか累は2階に上がってこなくて。───…少しホッとしたような、ガッカリ
したような。
「 ! 」
そしたら、枕元に置いたままだったケータイが、また鳴り出した。
★甘栗のちゃちゃ。
まさき:あれ〜?ここはどこだ…?神奈川県には違いないみたいだけど
ちいちゃん:何か道に迷ってないか?オレ達。
まさき:とか言ってる間にもう大会終わってるし!!累家に帰ってるし!瑞香無事だし!
ちいちゃん:悪党もおうちに帰っちゃってるよ〜。もう疲れた、しんどいっ、そうだオレらも休憩
   しよう。
まさき:どこで?
ちいちゃん:アッ!ホラ、あそこに美しいお城がある!…カラオケもあるし!只今のお時間は
   サービス割引実施中だし!
まさき:バカモノ!一人で入れ!!ちゅうかもうッ!悪党の代わりにお前を成敗してくれる!
   ポカ!!(激怒)
ちいちゃん:いてぇ〜〜〜(>_<)…次回へつづくっ。最終回らしいけどもうオレはそんな事どう
   でもいいっ。痛すぎる〜木刀だぞ〜?!信じらんねぇ〜!(>_<)

「弟以上、恋人未満。」−10    Written by; Tamaco Akitsushima