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「弟以上、恋人未満。」    Written by; Tamaco Akitsushima

                11 極上のブレックファースト。

 え?これって…うちの電話番号だよっ?どういう事?
『うち』 の電話番号。つまり、ホームテレフォンの。
「─────…はい………?」
かなり迷った後 出てみると、どうやらそれは 1階から掛かってきているらしい。
「…オレだけど。元気?」
「…………… ?!」
な、何 この電話…っ、何なのよー ?!
「───…う、うん…元気、だけど…」
電話の向こうの声は 忍び笑う。
「今日は 来てくれてありがとう。嬉しかったよ」
え?え?どこから電話してきてるのっ ?! 1階の…リビング ?! ダイニング ?!
あたしが黙ってると、「聞こえてる?電波悪い?」 なんて確認してくる。
わーっ、何か…緊張するな、お父さんとお母さん、横でTV見てるんだろうな、微かに音声
が届くもん。
だけど………っ フワフワするな、ヘンな気持ち。
「………今日は………本当に ごめんなさい。あたしのせいで…っ、」
「いや、事故だから。別に気にしなくていいよ。オレも、気が済んだし」
「…うん………。」
「オレ一人ミーティング出ずに、あの後すぐ 医者行って少しだけだけど縫ってもらった。だか
ら ちょっと大ゲサな包帯 巻かれてるけど」
あたしは 上掛けの中で身を縮めた。何て言っていいのか、もう言葉が見つからなかった。
「…でも…その、おめでとう…今日…。」
累は電話の向こうで、少し微笑む。気配で分かる。
「お前のために、何としても、死んでも絶対 結果出さなきゃ、と思って」
「 ?! 」
きゃー!何てセリフを言うのっ ?! は、恥ずかしくないの ?!
「………でないと、お前 責任感じちゃって もうオレと話もしてくれなくなりそうで。」
「……………。」
確かに。罪悪感に押し潰されそうだったよ…、記録が出るまで。
ホントだ、あたし もしも累があのまま泳げずに棄権しちゃったりしていたら、きっと もう彼と
こんな風に会話さえ出来なくなっていたと思う。
「なぁ、預かってるもの返すから、今から そっちに行ってもいい?」
「えっ…、」
「───…ダメなら 明日にするけど」
「……………、」
わー、どうしよう、何っ ?! 預かってるもの ?! 
無言で ひそかに慌てふためいていたら、いきなり部屋のドアが コンコンと音を立てた。
「 ッ! 」
大ゲサなほど、肩が跳ねる。
「───…瑞香さん?入ってもいいの?」

みっ…『みずかさん』 って一体 何 ?!
「ビ、ビックリだよっ、あ、足音忍ばせて 階段上がらないでよ…っ!もうッ」
ベッドの上で なぜか正座して。あたしは わたわたと両手を手グシにして髪を整えながら、
早口で抗議した。
累はもう一度 戸口のところで顔だけを覗かせ、「ちょっとだけ入ってもいい?」 と訊き、あた
しは プイとそっぽを向きながら、「いいに決まってるでしょ ?! どうぞ入れば ?!」 と 尖らせた
唇で 怒ったみたいに返事するしかないっ。
…つうか!そうしていなきゃ 恥ずかしすぎるんだよっ!ワケもなく!
「………はい、これ。」
子機を手にした累が ベッドの縁に浅く腰掛け、身体をこちらに捻って あたしの手に返した
のは、昼間のイルカ。
「─────…、」
「お前、持ってて、って言って…そのままオレ 何気にポケットに入れちゃったから。…はい。」
首から上に血が集中するのが 自分の事ながら見事に判る。
「…えっと…、いやその…っ…、あの、」
「─────…?」
「だから………、それ、あげるっ!」
「 ?! 」
累も 豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「もう遅いけど…ッ、お守りっ あげるつもりだったの!」
あぁ もうっ、さっき ワカに言われたばっかりなのに、何でこう ふてくされたような、可愛げの
ない物言いをしてしまうんだろうっ。自分にウンザリ。
そっぽを向いてなきゃ、とても ここに居られなくて。そうしていたら、累の方向から 少し微笑
むような気配が届いた。
「─────…そっか。…ありがとう」
そんな風に素直にまっすぐ お礼を言われるから、ますますあたしは 憎まれ口を叩くしかなく
なるんだっ。
「け、県大会も頑張ってっ」
「─────…。いや、県大会には出ないよ」
「え ?!」
あたしは今度こそ、彼のほうを振り向いていた。目が合ってしまうと、余計に気まずくて うろ
たえる。心臓も さっきから壊れたみたいにバクバク言ってる。
「…今日で高校の水泳は 終わり。」
「累…っ、」
思わず 詰め寄りかけた。彼の上腕に手を伸ばしかけ、慌てて引っ込める。
「─────…ホントは ドクターストップが出た、これからしばらく 筋トレも傷口が塞がる
まで控えてって言われたし、しばらく泳げないし、県大会まで間がなさ過ぎるし」
「そんな………っ、」
あたしの揺れる瞳をなだめるみたいに、彼の眼差しは 細められる。
「いいんだって。どうせ 今日で引退って決めてたし、だから今日に照準当ててたし。受験
もあるしな」
「─────………、」
「言っとくけど、瑞香のせいじゃないから。…だからもう 絶対に謝るなよ、謝ったらもう 口
利かないからな」
「…何それっ、…何それっ!ひどいよ、」
彼は微笑みを深くする。
「別にこれで 一生泳げないとかじゃないんだから、別にいいよ ホント。大学でも水泳やる
し」
「……………累………、」
彼は あたしに背を向けて立ち上がる。
「待ってよ!まだ大事な話 してないじゃん…っ!」
あたしは慌てて 彼の背中に声を張り上げていた。
振り向く累。
…急に怖くなる。だけど言わなきゃ。
「─────…あ…、あのね…、岩田 多恵の…事…、」
なぜだか指先が震えだしていた。それを悟られたくなくて、ギュッと拳を 硬く握る。
累は 立ったままこちらを見下ろしている。
「………あたしは気にしないから………。部活…やめたら もう一度 あの子と付き合う
約束になってた、って………。…県大会出ないんならさ、今日で部活は終わり、って事
だよね…。つまり、明日から 部内の子とも付き合えるって事でしょ…?」
嫌だな、不必要に あたしの声は揺れている。喉が詰まる、うまく声が出せないよ。
息を殺して拳を見つめたまま、彼の言葉を待った。
「─────………。そうだけど………。オレはもう あいつとは付き合わないよ…?」
「……………えっ…、」
「───…瑞香は?どうするの?」
答えに困った。
累が好き。
だけど…あたしは累にふさわしくない…。
「あたし、もう一度 姉からやり直したい」
「………、」
累が小さく戸惑った。眉がほんの少し潜められる。
「あたし、何かダメだ。る、累の彼女の時、あたしすっごく ヤな女になってた。…そんな自分
は、自分でも吐きそうなくらい 嫌いだった。…あたし どんどん累に頼っちゃうもん、『これくら
いの事してよ』 って。それが どんどんエスカレートしていっちゃう…!最後には、累が あたし
のために存在してくれてなきゃイヤ!みたいな わがまま女になっちゃうよ、」
「……………………。」
「─────…だから、もう一度 姉から出直します………。」
顔を上げられない。目をギュッとつぶっていないと、また昼間のように 堰を切った熱い何かが
喉を押し上げ、涙に変換されてしまいそうだ。
切なさに 押し潰されそう。
「───…って事はさ、お前は オレじゃなくって…あいつのほうを選ぶって事か…。」
累の声も、にわかに翳りを帯び、かすれて届いた。あたしから反らされた視線も、何かを
堪えるようなカオ。
そして、彼がため息をついた。眉間の力が抜ける。目が細められ、諦め顔になる。あたしは
逆に慌てる。
「違うよ!…だって あたしの好きなのは…っ、」
思わず正座していた腰を浮かせてしまって、彼を見上げてしまって。
彼がこちらを流し見て。
あたしはまた 後悔していた。
だから ダメなんだって!累の目を見てしまうと 泣いちゃう…っ。
「あたしは 誰とも付き合わないよ…、カイジとも付き合わない…っ、…だって、だって……
…、」
「─────………。」
うつむかずにはいられない。胸が一杯になって、喉元まで想いが込み上げてきて。
累の手が、またくしゃくしゃと あたしのうなだれている髪を優しく掻きなでた。
もうダメだ。
涙が瀧になる。
肩から 大きくため息をついた瞬間、両目からバケツをひっくり返したような 豪雨。
「………その先、聞かせてよ………」
累がもう一度、ベッドの縁に腰掛け直す。うつむいているあたしの 滲んだ視界には、彼の
白いシャツと、黒地に赤いパイピングラインの入った 薄いナイロン製のトレーニングパンツ
しか見えない。
そっと、伸ばされた両腕は あたしの肩を包むように抱いた。…だけどそれは 『抱き締める』
って感じじゃなく、もっと…そっと 壊れそうに…遠慮がちな腕だった。ほのかにプールの塩素
の匂いがした。
「累…っ、あたしと、居たら、疲れるんじゃ、ないの…っ?」
「─────…まぁ、疲れないと言えば 嘘になるけどな」
彼が小さく微笑う。
「だったらっ…、もう、あたしに、…っ構わなくても、いいよっ…、」
「嘘つけ、構わなきゃ 怒るだろ」
「───…っ 我慢、っする…っ」
「………しなくていいよ………」
えっ………?
“しなくていいよ”… ?!
「…オレも色々言いすぎた…、ごめん、これでもけっこう反省してる…」

 あたしは多分、15分くらい 泣き続けていた。痛くてたまらない 灼けた喉や、胸の中心が
悲鳴を上げ始めた頃、やっと 涙は枯れてくれた。
しゃくりあげていた肩や背も 気が済んだように静かになり、正座していた太腿は ショート
パンツの色が変わるほど 涙で染みになっていて。みっともなさすぎだけど、しょうがないよ。
こんな姿、見られたくなかったけれど。累を前にすると、あたしは ボロボロだ。取り繕えな
い。
「─────…瑞香、さっきの続きは………?」
「……………えっ………」
「『だって あたしの好きなのは』 の続き」
「─────…っ、そんなの知ってるじゃん………、」
「言えよ」
彼の唇は、そっと あたしの頬に触れてきて。
そのまま 涙の通った跡をなぞるようにして、涙を拭った。
「ちゃんと言えよ…」
離れた唇は、反対側の頬にも そっと触れる。
「あのさっ…、姉から スタートしたいんだけど………っ!」
「それはもう 聞いたって。」
「だったら…っ、キ、キスとか しないでくれるっ」
「───…弟が姉に キスしちゃいけないのか?」
にっ、日本じゃ しないよッ するわけないッ しないじゃんッ フツー !!
あたしの心の叫びは、恥ずかしすぎて 口に出来ない。
「………教えて。…瑞香の好きな奴の事」
「…もうッ。」
さっきまでの 遠慮勝ちに回されていただけの腕は、あたしを引き寄せて 抱き締めてきた。
…頬と頬が微かに触れて、サラリと至福が舞う。…そのまま耳たぶにも かすめるようなキス
が触れる。
「───…言わせたいんだよ、お前の口から」
「…累ってイジワルだよ…っ!そ、いうとこ…っ、キライ、─────…、ッ」
今度は唇を ふいに塞がれていた。
間近に見下ろした眼差しは 言う。
「………じゃあオレも そんな憎まれ口ばっかりの瑞香は嫌いになるかも?」
「…ッダメ !! 絶対 ダメだから !! 嫌いにならないで !!」
しまった、慌てて拒否してしまった!
目の前のたくらむように微笑う 天使みたいな表情。
「やん、もうっ…!イジワルだっ…、バカァ!」
「─────…イジワルなバカか………。」
「そうだよっ!」
「…二股の ヤリ逃げヤローだし?」
「───…っ。」
な、何でそんなセリフまで知ってんのっ ?! あたし 口に出して言ったっけ ?! 心の中では
実は 百回以上罵倒したけどさっ、言ってないはずだよねっ、面と向かって…っ。
「───…累、ふ、二股なんかじゃないよね…っ?」
「違うって。…でもお前は?どうだよ?ホントの事言えよ」
「……………違うよ…っ、そんな器用な事…っ あたし出来ないもん…っ」
「じゃあ、あいつとイチャついてたのは?」
「───…っごめん、…だけど 後からカイジも謝ってくれたけど…っ、ホントに あたし達
何もないし…っ、ホントだから…っ!あ…っ あたしが悪いんだ…っ、累の事 何も言って
なかったから…っ、カイジは 何も知らなくて、で、でもあたしは………っ、あたしの好きな
のは…っ、」
あっ、またもや しまった、また ここに話が戻ってきちゃった…っ。
累は見越してたように、また抱き締めてるあたしの耳の後ろで クスクス微笑っている。
あぁもうっ。誘導尋問じゃないかぁ、これっ。知能犯…っ!
「─────…あたしの好きなのは カイジじゃないからねっ」
「……………ふぅん。じゃあ、イジワルなバカのほうがいいんだな?」
「そっ、それもやだっ、だから…っ、姉からやり直すんだから…っ!」
累は あたしを抱いたまま、肩の力を抜く。この 終わりのない押し問答を諦めたように。
「…まぁ いいよ、じゃあ言わないんなら 代わりに一つ 頼みがあるんだけどさ」
「………何よ ?! 嫌−な予感ッ!」
「違う違う、カンタンな事」
また耳元で累が微笑う。…こういうの やめて欲しいんだ、どこが弟よっ ?! 何でこいつは
こーゆー声と口調で 平然と話せるかなぁ ?!
「…じゃあさ、姉さんにリクエスト。───…今夜、隣りで寝させて。何もしないから」
「ハァっ ?!」
余計に心臓が バクバクした。もう本気で 壊れかけだった。
多分 そんな心音も全部バレてしまってるから、タチが悪い。


 累は、本当に あたしの腰を抱いたまま、あたしよりも先に 眠りに就いてしまった。
あっという間に、ドロのようにまつ毛一本動かさなくなる。
「……………………。」
ヘンな気分だ。胸に彼が 顔をうずめているという図は。…伏せられたまぶたの、まつ毛の
一本一本を観察しながら、あたしは くすぐったいような甘い気持ちに酔った。
ヘンなの。…こんな姉弟って居る… ?! 居ないってば、どう考えても…っ。
 だけど微動だにしない彼は、死んだように 呼吸さえ忘れているように見える。
考えてみれば、昨夜は あたしをおぶって深夜帰宅し、今朝は早くから大会…、これ以上
ないほどの感情のジェットコースターを味わったのは 彼も同じだったという事に、ようやく行き
ついた。
あたしの数倍 疲れていて当然だし、すごい距離泳いでるし、脚にはケガをしているし…。
あたしは 彼の髪をそっと撫でながら、本当に不思議な気分だった。
だけど こういうのも悪くないな、って思えた。
彼の寝顔を見るのなんて 初めて。
1年の夏、廊下で彼とすれ違った時には 誰が考えただろう。2年後のあたしが、眠る彼を
見下ろしているなんて。

───…今日は何だか 最後まで色々ありすぎて、あたしも疲れちゃった。
累、ホントに こんなあたしでいいのかな………。
あたしと居て 嫌じゃないのかな………。
やっぱり今も あたしは彼と居ると、劣等感とか 自分の欠点ばっかり目に付いて その場から
逃げ出したくなるけど…。
きっとこれからも そうなんだと思うけど…っ。
でも いつか、累に迷惑掛けないあたしになりたい。
もっと綺麗になって、彼の隣りに立っても釣り合う女の子になりたい。
そして、その時には ちゃんと言えるんだ、彼の目を見て。

あたしは 累の事が好きだよ、って。


 「瑞香!起きなさい !!」
「……………ッ !!」
お母さんの声が降って来て、あたしはそれこそ 飛び起きていた。
「ヤバ !!」
とっ、隣りに 累が居るっ…!
─────と、思ったら。
あたしのベッドには、あたししか居なかった。…拍子抜けした途端、逆に心臓が震えた。
スーツ姿のお母さんは 頭に2本の角を生やして、両手を腰に当てている。超 カンカン
だった。
「……………累はっ?」
「もう とっくに起きてるわよ!…あんたは夏休みかも知れないけど、大人は今日も仕事
があるんですからね!もういい加減 迷惑掛けないでちょうだい!」
「───…なんだ………あぁ ビックリした………アセったっつうの」
あたしはシーツの上にへたり込んで、大きくため息をついていた。
母が階下へ降りて行く。…そしてそのまま 玄関口の扉が閉められる音がした。
ボサボサ頭のまま 1階へ降りると、累がキッチンに立って コーヒーを煎れていた。
晴れた朝。コーヒーの香り。彼の横顔。洗いたての髪が濡れてる。
「………おはよう。」
何だか 気恥ずかしいな。
「お、お父さんは…っ?」
「もう行った。」
「そ…っか。…ハハ、…早いね、どうしたの?」
「お母さん達に朝食と弁当作ってやろうと思って。昨日のお礼」
「ヘェ!模範的 孝行息子じゃん。…てか そこまでやるとやりすぎっ。模範家族ごっこ」
「──…瑞香のも作ってやるよ。トーストの他に何か要る?アメリカン ブレックファースト?
ヨーロピアン ブレックファースト?」
今日も恥ずかしい奴だなぁ。何 そのスマイルっ。朝から赤面しちゃうじゃんっ。
「…さ、先 シャワーしてくるっ。…そうだ累、お風呂入って 大丈夫だったんだ ?!」
「いや、シャワー出来ないから 髪だけ洗って…あとはタオルで拭いた」
「そっか………。しばらく不便だよね…、ホントごめんね…、あたしのせいで………、」
あたしが しゅんと小さくなると、累が 手にしていたティースプーンの先を あたしの額に向けて
突き出した。
「あ、今 『あたしのせいで』 って言った」
「 ! 」
しまった、そうだった、二度と言うな、って 昨日怒られたっけ!
累が たくらむような表情を作る。
「───…口利かないってのの代わりに、罰ゲーム一回。」
「エッ!何それっ、」
「一回それ言ったら、瑞香は一回 オレの言う事きかなくちゃいけない」
「ウソッ!やだそれッ!」
あたしの抗議は 空しく却下された。
シャワーを手早く終えて戻って来たら、ホテルみたいな朝食が そこに待っていた。何て言う
か、ハートを鷲掴みにするメニュー。…TV番組の代わりに、FMがかかってた。早口の
英語DJ、続いて流れるポピュラーソング。
「凝るね、累」
ありがとう、って言えなくて、またそんな憎まれ口を利く。…彼は テーブルごしに長い腕を
まっすぐこちらに伸ばして。そんなあたしの髪に触れた。
「………っ、何っ?」
思わず身を逸らす。そして スクランブルエッグを一口。口の中に フワフワが広がる。
累は頬杖を突き、こちらを見たまま 「別に?その髪 可愛いなって。」 と微笑んでいる。
なんかもうっ。…何で こんなに格好いいんだ ?! こいつはっ。
てかさ、あたしの目が ヘンになってるんだな、きっと!だって確か 元々は、全然タイプじゃ
ないはずだもんっ。
「───…累、今 何考えてた?」
「………瑞香の事。」
「………ッ、」
何でこいつは こーゆー事を人の目を見つめたまま サラリと言えてしまうんだッ !!
怒ったみたいに 朝食に取り掛かってたら、「…朝、危うく お前を襲いそうになってさ、」 と
口の中のものを吹き出しそうになるコメントを 超 真顔で言われた。
「───…でも オレのせいじゃないからな。お前が可愛すぎるのが悪いから。……お陰で
目が冴えてしまって めちゃくちゃ早起きしてしまった」
「だから何よッ」
そしてまた ニッコリ微笑うんだ、頬杖を突いたまま。
「…いいね、この 姉と弟のキワドい関係」
「……………………っ。」
思わず臨戦態勢になる。…うぅ、こんな時 どう対応していいのか分かんないよー。
「………食後のデザートは オレの情熱のキスでどう?」
ぶはっ。…やばいじゃんっ、コーヒー吹くとこだった…っ!
「前ッから 訊きたかったんだけどっ!累ってさっ、いつから そんなキャラなのっ?」
「…そんなって どんな?」
「なんつーか カン違いバカ王子系?…恥ずかしくない?」
あたしの、口いっぱいにトーストを頬張って膨らんだほっぺたが 余程おかしかったのか、彼は
妙にウケた。

累は あたしの彼氏じゃなくなったはずなんだけど。
─────何だかあたし達は、以前よりも ビミョーにいい距離感を保っていけそうな気が
する。
前より、ちょっとは自然体…かも?
今は 『弟以上、恋人未満』 、ってとこかな。




                ─────「弟以上、恋人未満。」・終─────
★あとがき。                                 秋津島 珠子
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
けっこう苦労しました、纏まらなくて。
またも勝手に話が進んでしまい、キャラクターは勝手に暴走、あたしの意志も思惑も願いも
希望も無視してこんな事に。もう何もいい訳はしません。
彼と彼女の関係だったのが何と姉弟に戻ってしまったもので、続きを書くしかないかと思って
います。
けれどもキワどい姉弟、恋のかけひきと綱渡り…などというのも一興かも、とも思っています。
きっと次回も物語を考えずに書き出すので、どっちの方向にお話が転がるのか、私にも分か
らず保証も出来ません。が。とにかくラストだけは絶対に無理やり方向を捻じ曲げてでもハッ
ピーエンドに持って行きますので。
気分としては、文化祭とか体育祭とか、書きたいです。同じく義理の姉と弟モノ・ユキ&南
はどちらも中卒で学生ではなかったため、こちらではユキ&南では書けなかった「学園モノ」っ
ぽい題材を使いたいです。

受験生のかたへ。まだ結果が出ていないかた、心よりお祈りしています。
不本意な結果に終わったかたへ。どんな結果が出ようとも、人生とはよく出来たもので、
結局「あの時あの事があったお陰で」という思わぬプレゼントが、ちゃんとあなたの行く手には
用意され、待ちうけているのだと思います。人生とはどうやら、そんな嬉しいハプニングの散り
ばめられたジョークの連続で出来ているようです。
最後に、栄光を手にしたかたへ。どうぞあなた自身が自分をいっぱい褒めてご自身へのごほ
うびをあげて下さい。これほどすばらしい事はないです!あなたの力です。本当におめでとう
ございます。

…明日も、今日よりほんの少し、ラッキーとハッピーがあなたの元に訪れますように。

                                            たまこ

「弟以上、恋人未満。」−11    Written by; Tamaco Akitsushima