3 目隠し。
家に帰っても、ヘンな感じだった。
足元がフワフワ。月面を歩いているみたいに、おぼつかなかった。
さっきから 累の事じゃなく、カイジの事ばかりが 頭から離れてくれなかった。
─────…彼に相手にしてもらえるなんて 1%も考えた事なかった、…中学の頃。
彼は中学時代、誰かと付き合ってるとか、そんな噂、全く無い人だった。ガキだったあたし
には 見えていなかったけれど、要するに 彼もガキだったワケだよ。女の子の事より、男の
子との遊びに 夢中だったんだから。
「─────………。」
…だけど………。今日の彼は、違った。
明らかに男だった。
あたし達が会わなかった この3年間。カイジにも きっと色々あって、あたしにも
色々あっ
て…。変わってて当然なんだ、外見も中身も。
夕食の時 累と顔を合わせても、とんでもなく うろたえてしまって、彼の目が
ちゃんと見れ
なかった。
あたし───…彼氏じゃない人と キスしちゃったよ………。
その事実に気付いて、すんごく 焦りに近いような罪悪感が チクチクと胸に刺さり始めた。
小さな針は数を増やして、いくつも心臓に刺さってくる。次から 次へと。
いくら 不意打ちだったからって。
いくら、コンマ1秒の光速で、今 思い出そうとしても カイジの唇の感触なんて まるで思い
出せなかったとしても。
………あたしって酷くない…?
違う人と─────…。累以外の男の子と………っ。
うわ、あたしって…サイテーじゃない ?! どんな事情があったにせよ、もしも 逆の事をされ
たら あたしはきっと とんでもなく累を責めるよ…っ。きっと 殴りかかって泣き喚いて、めちゃ
くちゃにせずにいられないくらい…!きっと彼の どんな言い訳も聞かない、絶対に聞いて
あげないと思う…!
それくらい酷い事、あたし しちゃったんじゃない…?
これって裏切りかも…。累に対する…。
あたしって─────…サイテーじゃないの… ?!
考え始めると どんどん止まらなくなって、夕食は針のムシロだった。
食べ終えると、逃げるように2階へあがる。
独りになって、扉を閉めても 何となくずっと そわそわと落ち着かなくて、あたしは自室の
デスクに腰掛けたまま、ボーっと 物思いに耽っていた。
心の中で、2人の自分が言い争っている。
“違うんだってば!…だって あれは…っ、あたしのせいじゃないもん、カイジが
悪いんだ
よ…!”
“だけど 彼氏以外とキスしちゃったのは 事実じゃん…!”
“あんなの、キスって言わないよ!だって ホントに触れた ?! 触れたような気がしただけ
じゃない?!”
“またごまかそうとする!カイジと会えて、カイジと過ごせて、ちょっと ときめいたクセに…!”
“違うよ 違うよ!あたしが好きなのは累だもんっ、今は 累が好きだもん…!”
“だけど 久しぶりに見たカイジを やっぱり格好いいなぁって思ったのは ごまかしようがない
じゃない ?! 結局 浮気者なんだよ瑞香は…!累が居るのに!”
─────気が付けば もう11時近く。
「もうっ、お風呂入ろうっ、」
暑いからどうせ シャワーしかしないけどっ。気分変えないと、どんどん気が滅入っていく…!
「……………あ、」
階段を降りて、バスルームに続く廊下に足を向けると、手前の洗面台で 歯を磨き終えた
ところの累と 目があった。
何となく夕食の時も、あたし達は あまり会話しない。…以前のように意地張ったりしてる
わけじゃないんだけど、お父さんやお母さんの前だと、何話していいのか分かんないからっ。
だからと言って、じゃあ夕食終わってから、受験勉強してるかも知れない累の部屋に行く、
ってのも…。だ、だって ヘンなイミにとられたら、とか 考えちゃうしっ。そしたらもう、きっかけを
逃しちゃって、自室で一人 過ごすしかない。
累を前にして 何か言おうとしたけど、どう言っていいのか思いつかなくて、何となく うつむい
たまま、廊下を通り抜けようとして。
「…ッ!」
バスルームの手前、脱衣所のドアを 後ろ手に閉めかけた時、彼の手に止められた。
「…累、」
彼の表情は、いつもと そう変わらない。だけど、柔らかな表情とは裏腹に、目元は微笑っ
てない。
あたしはやっぱり ちょっとドギマギしてた。後ろめたさとか、罪悪感とか、そんなものが知らず
表に出ていたと思う。
累は脱衣所に入ると まっすぐ近付いてきて、あたしはつい 後ずさってしまってた。
「───…今日、学校 来てくれた?」
「えっ、…あ、………うん…、」
気付いてたんだ…!プールサイドから、一度も こっちを向かなかったと思ったのに…!
累はニッコリ微笑う。
「ありがとう。」
「……………っ…、」
あの、全然 喜んでないでしょ…?ありがとうって…、そりゃ カオは極上のスマイルだけど、
雰囲気、何だか怖いよ…っ!
累の唇が近付いてくる。あたしは 背後のバスルームに続くドアに 背中を貼り付けたまま、
肩をこわばらせる。
「─────…、」
…キスされる。…そのまま、深くなる。
やだ…っ、何か分かんないけど、すっごく怖いよ…!殺気みたいな 攻撃的な雰囲気を
感じるよ…っ、しかも それを押し殺してない… ?! 累…っ。
歯列を割った舌先は、そのまま口内に押し入るようにして忍び込んできて、有無を言わさ
ない強引さで あたしを翻弄した。
ギュッと目を閉じて耐える。なぜだか耐える…っ。
息も出来ず、肩をすくめたまま 微動だにしないあたしの脇腹に、彼の長い指が
触れて
きた。
「…っや、─────…、…ッ、」
ウソ…っ、何で… ?!
やだ、こんなとこで…っ、まさかだよね…?!
だって…っ、お父さんと お母さん、すぐ横のリビングに居るし…っ、そりゃTVの音鳴ってる
けど…っ、も、もしかして今すぐ ここに入ってこられたら…!
「累ッ、」
あたしの短い声は、すぐにまた 塞がれてしまう。
彼の手は、今度はスカートの裾から、太腿の内側を なぞるように這い上がってくる…っ。
…ダメ、指の動きと共に ザワめきが背骨を伝い上がる。
待ってよ…!
あたしは 力いっぱい彼の胸を押しやろうとしているんだけれど、彼は ビクともしない。
…それはあたしに かなりのショックを与えた。つまり あたし、彼がやめてくれなければ
抵抗
しても全く意味がないって事 ?!
「───…ぅ、待っ、………ン、累、」
やっと 唇が離れた…!
と思ったら、
「ゃ、あ…ンっ!」
前触れもなく、うなじの髪をかき上げられて そこを舐め上げられた。
今度こそ、ビクリと 身体を電流が走り抜けた。
彼が忍び笑う。
「───…そんなカオしないでよ、ここで 最後までしたくなる」
「……………っ!」
「…それとも もう、そのつもりになっちゃった…?」
また微笑う。…すっごい甘い声でささやいてくる。…イジワルな男だ…!
「累くーん、明日のお弁当、要る?」
リビングから母が、大きな声を掛けてくる。
あやうく あたしの心臓は、口から飛び出すところだった。
「あぁ、いいよ お母さん。テキトーに買って食うから!」
彼はここから、リビングに向かって 返事を返した。
「累………っ、」
「後で オレんとこ来いよ?続きしてやるから」
「───…っ、」
何、その偉そうな口の利き方…っ!
去っていく背中。
彼は 心の中で毒づいた声が聞こえたのか、にわかに振り返ると、また天上の微笑みを
向けた。
「───…朝より ずっと気持ちいい事してあげるよ、姉さん。」
「バカぁッ!」
何が 『姉さん』 だっ!バカ弟…ッ!
あたしは 怒りに任せて髪をシャンプーし、シャワーで一気に泡を流して…。それでも悔しさ
よりも、切ないような 彼に対する感情が 一気に溢れ出して来て、彼の元へ行くしか選択
肢は残されて居なかった。
─────どうしようもないほど、累が好きだ。
さっきまでの、あたしの脳を支配していた カイジへのときめきは、やっぱり 『街で芸能人を
見かけちゃった』、的なときめきでしかない事を、今の累の腕の強さと共に 思い知った。
それに───…。彼に、あんな風に強引にされるのは、嫌じゃない。
そりゃ、悔しいけど。でも それくらい、あたしの事 好きで居てくれるんだ、って思えるから。
………今は あたしなんだよね…?累。…岩田 多恵じゃ ないんだよね…?
「あ………っ!」
おそる おそる 彼の部屋のドアを押し開けると、いきなり腕を 強く引っ張られた。
「待ってよ…っ、」
まだ ドア、きちんと閉まってない…っ。
「累ッ、」
さっきの続きみたいに、今日の彼は とても強引でせっかちだ。…それにやっぱり、ちょっと
怖い。
「…疲れてるんじゃないの…?あんだけ練習して…、」
「───…さっき、ちょっと寝てたから」
「だけど………、」
「何だよ、したいんだろ?」
何 ?! その言い方っ。何だか 屈辱的だっ。
「いいよ、別にしたくないっ、」
「─────…瑞香…、」
うわ、何よっ、今度はすごく ソフトに名前を呼んだりしてきて…っ。何 考えてるの ?!
「したくないなら、何で ここに来たんだ…?」
「………ッ、そりゃ…、累が…来いって言ったから…、」
「嫌なら 来なくてもいいのに」
「…じゃあ 帰るっ、離して、………ぁっ、」
首筋に噛み付かれた。…そのまま、ザラついた舌先は あたしの耳元にまで這い上がって、
耳たぶにも歯を立てる。
「…ッ、」
耳の中に、ささやきを流し込まれる。
「………したくないんだ…?ホントに…?」
その声だけで、正直、身体の最奥は スイッチを入れられたみたいに目覚め始めてしまう
から困る…っ。自分の身体だというのに、こればっかりは どうしようもない。小刻みに震え
たつ肌。
キャミソールの裾を割って、忍んでくる 腕。
もう ゾクゾクしてる。鳥肌が立つ。
さっきから、半ば開いたままのドアの向こうに 廊下が見えているのが、気になって仕方が
無い。だって その先は階段だし…っ。
「─────…んっ、ぅ、ゃ…ぁン、」
「───…ホントにしたくない…?ねぇ、ホント…?姉さん」
からかうような声。もう!何が姉さんよっ ?! 甘えてくるニュアンスとは てんで裏腹な 指先。
脇腹を何度か掠めて、面白がるように這い上がってくる手のひらは、胸の輪郭を辿り、その
まま背後へ。
「ひゃっ、ァ、…ッんっ、」
あたしは声を押し殺すのに 相当のエネルギーを必要とした。
だって彼の指先は あまりにも巧みにあたしを絡め取ってゆくから。
立ったまま、痛いほど抱きすくめられている あたし。
キャミソールとブラを 一気にたくし上げられ、腰を引き寄せられたまま、背中に回されている
彼の手に肩甲骨の付け根辺りを、窪みに沿って なぞられる。その間にも 耳の中に舌を
差し入れられて、あたしは 累の腕が無くては、もう 腰からその場に崩れてしまいそうになっ
てた。
脚に 力が入ってくれない。腰にも。
「やっ…ァ、累、…アァ、…ッ…、」
ガクリと膝が抜けそうになって、咄嗟に 彼の肩にすがる。すると そのまま抱き上げられて、
ベッドの上に降ろされた。
「待っ…、…やんっ、」
起き上がろうとするよりも先に 彼の手に押さえつけられ、きつく口唇付けられた。
キスの間にも、指は 胸を揉みしだいてくる。あたしの抵抗は、すべて 彼の手から繰り出さ
れる甘美な波に封じ込まれ、なす術もない。
だけど やっぱり気になる…っ、開いたままのドア。やだ、ホント、なんか今日の累、いつも
より怖い感じがするし…っ、どうしよう…っ。
「ねェ、ドア開いてる、」
「別に いいだろ」
「よくない…っ、だって…っ、」
「オヤジ達、2階になんて 絶対上がってこないだろ」
「だけどっ、…声…っ……、」
すると、あたしを押さえつけたまま見下ろしていた累が 小さく微笑った。
「───…なんだ瑞香、やっぱり したいんじゃん、めちゃくちゃ その気じゃん…」
ちょっとイジワルな笑い方。その表情だけで あたしはカッとなる。
恥ずかしさと怒りの両方が 同時に込み上げる。
「違うよっ、えっ、…あ!」
嘘ッ!信じらんない…っ !!
彼の片手は ベッドごしにデスクのほうに手を伸ばし、チェアの背に掛かっていた
フェイス
タオルを引っ張ると、いきなりそれで あたしを目隠しした…!
「そんな気になるなら、…ホラ これで見えない」
「そんなぁ…!」
ギャー !! 何これっ…、信じられないっ、ホント信じられないよ 累っ!何 考えてるの
?!
「え…っ、やだ、ちょっと…!」
とんでもなく うろたえてたら、今度は頭の上で 両手首を縛られた…!多分、制服のネク
タイで。
「る、累…っ、」
余りにも不安になって、彼の名を呼ぶ声も 消え入りそうに細くなる。
「───…うわ、…何か…似合う 瑞香、すっごく色っぽくて そそられる…」
うっとり呟き返してくる 彼の声。
「───…もっと オレの名前呼んで…、その上ずってる声も 最高…」
いやんっ!
耳の中に 生温かく湿ったものが挿入される…っ。あたしは思わず 飛び跳ねそうになる。
あたしの胸から スカートのあるウエスト部分までは エアコンの風にさらされている。…つま
り、そこだけ 肌が露出している状態…。彼の、耳に差し入れられている舌を かわそうと
身を捩るうちに、太腿にもエアコンの送風が じかに触れ始める。…つまり、身じろいだせい
で スカートもめくれ上がってしまってる、っていう事。
「や、やだ…っ、ホントに やだ、累…、」
あたしは 半ば逃げ腰になって 懇願していた。
「─────…すっごくいいよ…、その声も ホントいい…、もっと オレの名前呼んでよ…
姉さん」
「ひどいよ…っ、こんなの…っ、冗談にしたら やりすぎ…っ………、」
「─────…冗談?…そう思う?」
にわかに 恐怖心は増す。
彼が 今、どんな表情で あたしのどこを見下ろしているのか、判らない。…声はとてつもなく
マイルドで、怒ってる感じはない。だけど 彼から醸し出される空気は、僅かに
そのエッジが
触れただけで 今にも切れそうなくらい、…怒ってる…?
「もしかして…、怒ってるの…っ?累」、
「───…え?何で そう思うの…?」
「だって………っ、」
怖いもんっ…、すっごく 怖いんだもん…!
「─────…心当たりでもあるんだ…?オレに対して」
「えっ………、」
咄嗟によぎったのは、紛れもない…夕刻の かすめ取られたキス。
だけど…、まさか 見られてないよね…っ?累、かなり離れてたし、クラブの人達と…そうっ、
あのマネージャーと 楽しそうに話してたじゃない…っ!
彼の人差し指の指先は、これ以上ないほど ゆっくりと、あたしの脇の辺りから
胸の輪郭に
そって辿るように滑り、そのまま心臓から みぞおちへとまっすぐに降り…お腹の窪みへ…スカ
ートに当たり、そのままスカートに沿って ウエストを横へ…背後まで回って、でもスカートを
下ろさずに 更に ヒップを辿って太腿のほうへ…。
「………う………、」
ゾクゾク 肌が粟立つ。次に何をされるのか判らない恐怖と、彼から醸し出されている
険し
い空気とに。
太腿の内側に回った 彼の手のひらは、愛でるようにやはり ゆっくりと、あたしの脚の内側を
膝のほうへ滑ってゆく。
たまらなくって、思わず僅かに 膝頭をこすり合わせる。…その左膝を、彼の左手が掴み、
折り曲げて開かせる。…やだ、こんな格好…っ!
「………ッ!っんッ!」
や…っ!
いきなり、耳たぶから胸に移った 唇。
「ダメだって、声 殺しとけよ、下に聞こえるって」
「酷いよ…っ!ドア閉めてよ…!」
彼は あたしの言葉は無視する。
仕方が無いから、あたしは自らの唇を噛み締めて 声を殺す努力をしなければならない。
「なぁ、いつもより感じてない?瑞香」
「やだぁ、………ッ、」
何も見えない分、余計に 彼の舌先が触れてくる感触が、リアルに 細胞に伝わる。
「こういうの、けっこう好き?もしかして…」
酷いっ、クスクス忍び笑いながら そう低く問う、累の声。
「好きじゃないよっ!離してよ…!」
「嘘だ、絶対、嘘」
「何それ…っ、」
「だって…こことか、」 すっごい感じてるもん、いつもより。
「ヤんッ!」
ナイショ話を打ち明けるみたいに、耳に再び触れた唇は、空気だけで そうささやきかける。
ダメだ、とても耐えられそうにない…っ、それほど、たったこれだけで あたしの下半身はもう
…どうしようもなく 熱く溶け出している。
「………なぁ、オレの事 好き…?瑞香………」
脇腹の辺りをも、優しく撫でてくる手のひら。…ダメ、やめて…っ。
「こん、な事する…っ累、嫌い…、」
「─────…、」
─────あ、また 忍び笑いっ…!すっごく悔しい…!負けた気分になる…っ。
「だけど めちゃくちゃ気持ちよくない?」
また耳元に ささやきを流しこまれる。
「よくない…っ!」
「ヘェ、」
うわ、怖いよ…っ、
「じゃあ、別に 大丈夫だ」
「何が…っ!」
「ホントにドア 閉めなくても」
「……………っ、」
やだ…やだぁ 累っ、こんなの たまらないよ…っ!何とかしてよぉ、どうしたの ?!
─────…まさか、ホントに見られてた… ?! 昼間のキス…。
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★甘栗のちゃちゃ。
ちいちゃん:うわお!そう来たのか〜弟!
みずほ:理解不可能だ…、この行動。
ちいちゃん:うっははは〜っ♪ある意味屈折してるねぇ!
みずほ:お前嬉しそうだなぁ、今日も。(あきれ)
ちいちゃん:お前はいつもつまんなさそうだな〜(あきれ返し)早く次回につづけッ! |
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「弟以上、恋人未満。」−3 Written by; Tamaco Akitsushima |
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