小説トップページへ戻る 




「弟以上、恋人未満。」    Written by; Tamaco Akitsushima

                    5 ハプニング。

 今度の日曜に行われる 水泳大会。…オレにとっては 高校生活最後の出場。…これを
ラストに、部活は引退だ。
………だからこそ オレはこのところ、少し神経質になっていたかも。
もちろんそれを、瑞香にした事への言い訳に使うつもりはないけどさ。
昨夜は オレもどうかしていた。…やりすぎた事は、誰に言われなくても 自分自身が嫌と
いうほど感じてる。
いくらなんでも 目隠しして手首の自由まで奪うなんてな。
だけど そうせずにはいられないほど、オレの怒りと焦りは限界を越していた。

正直、昨日見てしまったあの場面は、とんでもない衝撃だった、オレにとって。
夕刻、瑞香の隣りで笑っていた男。オレには見せないような彼女の笑顔。…遠く、目の
端をかすめた その横顔を見やり、「あれ?瑞香?」 そう思った瞬間。横断歩道の手前で
男は彼女にキスをした。
 見間違いかと疑うよりも先に、オレは ギクリと目を逸らしてた。
心臓だけが 口から飛び出しそうなほど、いきなり早鐘を打ち始めた。全身の血が暴れ
狂うみたいに速度を増した。…なのにもう、オレは 振り向く勇気さえなかった。
…昼間、彼女が オレの部活を見に来てくれた事も気付いてた。…オレが内心 どれほど
嬉しかったのか、きっと瑞香には分からないだろう。
…そう、舞い上がってた分だけ、直後 お前に墜とされた奈落はキツかったよ。
一瞬にして 瑞香の全てが信じられなくなった。
…その笑顔も嘘か? オレに好きだと告げた言葉も嘘? 戸惑うような恥ずかしげな
仕草も、頬を赤らめてみせる表情も、全部ウソ ?!
そんな事あるわけない、と もう一人のオレは言う。
だけど、間違いなく オレの中の彼女に対する信頼は、音を立てて崩れ去った。
後に残ったのは 疑心暗鬼でちょっとシニカルなオレだけ。

 ─────悪い時には、悪い事が重なるものだ。
ろくに眠れないまま朝を迎えて、いつもより早く部活に出ようと思った。
母親がオレに 弁当を用意してくれようとしていた。…もうすぐ大会なんだから、ちゃんと
栄養バランスの取れている食事を、と。
気遣ってくれる事には とても感謝したけれど、食卓に これ以上長居すれば、「瑞香を
起こしてきて」 と頼まれるのは目に見えていた。
今、どうしても 瑞香の寝顔を直視できる状態じゃなかった。つらすぎた。多分また、昨夜
みたいな訳の分からない苛立ちが オレを支配してしまう。
オレ、また あいつに酷い事をしてしまうかもしれない。
………いや、正直 今はこんな自分がたまらなく嫌だった。自分がどうしようもなくサイテー
な奴に思えて。
だからオレは、申し訳ないな、と思いつつも、弁当を待たずに登校した。

まだ誰も来ていない朝のプールサイド。とりあえずトレーニングウェアのまま 腕立てや腹筋を
して。校庭を軽く走った。…そうしている間も ずっと、オレの脳裏には瑞香の 悩ましげに
寄せる眉がチラついていた。
…昨夜。───…オレが両手を解放してやると、彼女は オレにすがるように抱き付いて
きた。
正直、複雑な想いに捉われた。
オレの腕の中、彼女はすごく感じてた。…それはもちろん 演技などじゃなく。
今まで彼女を抱いた中で 一番 綺麗だった。どうしようもなく オレの脳は揺さぶられた。
最後に彼女が達しそうになった時、叫び声を上げかけたから、思わず唇で 彼女の声を
塞いだ。…そうしたら彼女は ひときわ喉の奥を震わせて、オレの背中に回していた手に
力を込めて耐えた。
「……………ッ!」
背中に鋭い痛みが走ったのを感じながら、次の瞬間には、弛緩した彼女の爪が オレの
肌から離れたので、オレも 彼女から唇を離した。
見つめ合いながら、たまらない気持ちが胸に込み上げた。
─────…オレは どうしてこんなにも、彼女を好きなんだろう。
考えても答えの出ない 切なさ。
ただそこに、紛れも無い自分の想いだけが ポッカリと確かに存在していて。その事自体が
切なかった。

 部員が集まり出し、今朝も いつも通りの大会に向けた特別練習メニューが 滞りなく
行われるはずだった。
─────けれど、今日に限っては そうではなかった。
原因を作ったのは、オレだった。
正確に言えば、オレの背中に走っていた、赤い傷痕。
「─────……… ?!」
数名の部員に指をさされ、叫ばれて。
「 ?! 」
もちろんオレは 自分の背中なんて見えないから、初めは何事か よく把握できなかった。
そうしていたら、鬼のような形相に変わった主将が、オレに殴りかかってきた。
「 ! 」
よける隙もないタイミングだった。
背中に衝撃。─────正確に言えば、背後の壁に オレの肩と背が当たっていた。
頭が一瞬 真っ白くなり、次に ぼんやりと痺れに似た痛みを 左側の口の端に感じた。
ジンジンと痺れは大きくなり、痛みに取って代わり─────…。
ブレた焦点が合うと、目の前には オレをすごい眼で睨むように見つめ、肩で怒りを押し
殺している主将の顔があった。
口の端に手をやり、見ると 手の甲には血が付いていた。

 なぜ こんな事の顛末になったのか。それには、もう少し過去に遡って話す必要がある。
まだ、オレが瑞香を知る前の事。
─────…水泳部2年に上がったオレ達のクラブに 新しく入部してきた、1年の岩田
多恵。…マネージャー希望の彼女は 明るく天真爛漫で、笑顔が弾けるような 清潔感
溢れる女の子だった。
白いTシャツが すごくよく似合ってて、部員にも すぐに打ち解けて。
………そう、きっと 彼女に恋をした男子部員は、主将以外にも たくさん居たと思う。
 部活内での恋愛は、暗黙の了解で ご法度になっていた。
オレは それを知りながら、岩田 多恵に告白されて、何となく 付き合いだした。…それが
2年の初夏の事。
もちろんオレ達は それを隠していたけれど、そういうのって 何となく雰囲気で知れてしまう
ものだ。
…夏休みが終わり、3年の先輩達が引退し───…仲のよかった親友が 新しい主将に
任命された。オレは正直、主将を務めるとか、そういう器じゃないし、人を纏める事にも
興味がなかったから、2トップと呼ばれる片割れのそいつが主将になることに 全く依存は
なかった。むしろ嬉しかった。
その主将が 2学期に入ったある日、部活帰りに オレを呼び出した。
用件なんて、訊かなくても判っていた。…それはやっぱり、多恵との事だった。
「部活でのチームワークに支障をきたすから、どうか3年で引退するまで、付き合うのは
自粛してくれないか」
オレと多恵は、その申し出を飲んで 別れた。
「───…来年、3年の夏の大会が終わったらね。…その時、先輩の気持ちが変わって
なかったら…まだあたしの事 好きでいてくれてたなら、もう一度………」
多恵は 無理して作った笑顔と少しかすれたような声で そう言った。
その、何かに耐えるように寄せられた眉と、今にも溢れそうな涙を懸命に堪えている多恵
を前に、オレは彼女の肩を 抱き締めずにはいられなかった。

 正直、オレと多恵が別れてからの部活の雰囲気は、格段にスムーズで いい感じに変わ
ったと思う。
そして3年になり………。だけど オレは知っていた、今も多恵が オレを好きな事。…今も
主将が多恵を好きでいる事。─────そして もしもオレの人生に 瑞香が登場しなけ
れば─────…。オレと多恵は どうなっていただろう。

 つまり 主将は誤解したんだ、オレの背中に残る爪痕を見た瞬間。オレと多恵との関係
が 今もひそかに続いているのだ、と。

 男子更衣室での異変は、結局 顧問の女性教師にまで知れてしまった。
オレの背中を見て 彼女は何とも言えない顔をした。…出来れば見たくなかった種類の、
何ていうのか 教師じゃなく女の顔だった。
オレだけが、自分の傷の様子を見て確認する事が出来ない。けれど そんなにもあからさま
なんだろうか、この傷。…確かにヒリヒリ痛いけど。
マネージャーの多恵は かなり取り乱して泣いていた。
その姿も、余計に男子部員達の下衆なザワめきを呼んだ。
苦虫を潰したような主将の、オレのほうを見ない横顔。…白く握られている拳。
かなり冷静さを欠いた先生は、4日後の日曜日、大会の朝まで 主将に部活への参加
自粛を命令した。
暴力行為なので 本来ならば大会出場停止の処置を取らなければならない規則だった
けれど、それだけは オレは食い止めたかった。…これくらい、大した事じゃない、と 言い
張った。それは余計に 主将である親友を いたたまれない表情にさせた。
───…オレは、同じように やはり自粛を促されたけれど、それを 敢えて呑む訳には
いかなかった。午前中の練習は、こうして話し合いにもつれ込み、潰れた。
「………判りました。じゃあ今日のところは オレもこれで帰ります。…でも、これだけは
ハッキリさせておきたいんで、言わせて下さい。」
オレの周囲を取り囲んでいる男女の部員全員が、一斉に固唾を飲んで オレの言葉を
待つ。
「───…まず、この事に マネージャーの岩田さんは 何の関係もありませんから。」
小さなどよめきが起こる。下世話な空気に、オレも心の中で 『余計なお世話だ』 と 吐き
捨てるように毒づく。
「それからオレ、今日はもう部活に参加しませんが、明日からは また参加させて欲しいん
です。…自分の練習メニューは こなせなくてもいいですから。1、2年の部員を仕上げる
のに、ここで オレも主将も抜けたら、大会が…」
「片桐くん」
オレの言葉を、先生が遮る。
「ちょっと こっちへ来なさい、」
慌てた様子の先生は、余裕を無くした口調で オレだけを呼びつけた。
「判ってるの?だけど 原因を作ったのはあなたでしょう?」
「………なぜですか。オレとマネージャーが付き合っているって事なら オレにも謹慎しな
ければならない理由が出来ますけど、オレは 今は部内の誰とも付き合ってないんだし」
「それでもよ、大会前だっていうのに、他の部員の子達の精神衛生上 よくないでしょ、
みんな気になって 練習に集中できないわよ」
「だからオレ、別に 水に入れなくていいですから!…先生、オレだって この大会に賭けて
るんです、照準絞って来たんです、必死だし 真剣なんです、1年と2年をちゃんと仕上げ
なきゃ団体戦が…、」
全く引かないオレに 先生が苛立ち紛れのため息をついた。
「…だったら私生活も 大会まで自粛したら ?! …ったく 高校生でしょ、学生なんだから」
さすがに 的を射ないその言い掛かりには、オレも ムッとしてしまった。
「先生、オレは 勉強も部活も おろそかにはしてませんし、今は夏休み中です。とにかく
オレには 部活を自粛しなければならない理由はないはずです」
絶対に隙を見せない、と決めて、射抜くような強い瞳で 先生を見る。ここで引いたら それ
こそ…部活内はぐちゃぐちゃだ。…オレも主将も、多恵も。
「─────………、」
「とにかく オレにとっては大事な大会なんです、悔いを残したくないんです、こんな つまら
ない事で」

 更衣室の前まで戻ると、主将が 登校時のトレーニングウェアに着替え終え、荷物と共に
オレをチラリと流し見ると、「悪かったな」 と謝ってきた。
オレは頷くと、「絶対 大会は未練の残らない形で迎えような」 と言った。
「オレもこの後 すぐ、ジムのプール行くから。」
そう付け足して 僅かに微笑うと、彼もバツの悪い笑みを見せて 去って行った。
オレは 大きくため息を付く。
…朝から なんてツイてないんだ…!…そりゃ、自業自得と言えば それまでだけどさ…っ。
あと4日…!あと4日しかないんだ、大会まで…!ったくもう…!
 時刻は まもなく正午を指していた。
やたら疲れを感じながら 重い脚を引きずって体育館横の水道まで行くと、多恵が そこに
一人佇み、声を殺して泣いていた。
「……………。」
そうだよ、まだ 多恵が残ってた。
─────…オレの事を ずっと想い続けてくれている彼女。
「─────…ごめんな。」
オレに言える言葉なんて、これ以外の何がある?
まだ変わらない お前の気持ちを判ってたって、もう付き合えないんだよ…。オレ達の間に、
月日は流れてしまって。もう、高校2年の時のオレには戻れない。
─────ごめん。ホントごめん。
「……………、」
多恵はまだ 俯いたままで。オレのほうを 見上げようとしない。
「………大会が終わったら、って…。もう一度 前みたいに…って…、そう思ってた…っ!」
少し責めるようなニュアンスの混じった、涙声。
グサリと突き刺さる。
だけど、どうしようもない。
─────…オレ、瑞香と出会って 解かった。
…多恵の時とは比べ物にならないくらい───…、いや、オレが過去 好きになった どの
女の子とも、瑞香を想う気持ちは 別物だ。
何もかもが霞んでしまうほどの、決定的な確信。
次元が違う、そう言うしかない。
瑞香と出会って、オレは 違う種類の 『好き』 を知った。
これはもう、言葉では 説明できない。だって、ピッタリくる言葉なんてないから。
ただ、違うんだ。明らかに違う。
『好き』 なだけじゃなく、『必要』 って感覚に近い。
オレは 瑞香無しじゃ、窒息してしまうと思う。それくらい、あいつに溺れてる。あいつに 心
奪われてしまってる─────…、あいつを守るのは オレじゃなきゃ嫌だ、って オレの心
は 枯渇したように叫んでる。
こんな風に、恋愛によって 心がグラグラに揺さぶられる事なんて、今まで一度もなかった。
だけど 今のオレは、あいつの行動や ちょっとした言動の一つに振り回されてる。…主導権
奪われてる。───…文字通り、まさしく 心奪われてる状態。
「………ねぇ、誰…?付き合ってる人。ホントに 部活以外の女子…?」
「……………、」
オレは 答えたくなどなかった。
「─────…同じ高校の人?」
「─────………、」
やっぱり、答える事をためらうオレが居た。
これ以上 多恵をうろたえさせたくなかった、せめて 大会が終わるまで───…。
そうしなきゃ、ただでさえ今日のこの事件で 部活内は足並みが揃わずバラバラなのに。
明日から 主将は出て来ないし…ムードメーカーの多恵までが こんな調子じゃ…。
「………ホント、みんなが思ったような そんなんじゃないよ、この傷」
「───…えっ………、」
オレは その場しのぎの言葉で、お茶を濁すことを選択した。…卑怯だと言うなら言えよ。
それくらい、今のオレには 大会は大切だったんだ。
───…あと数日、それでいい、何とか今すぐにでも 部内の体勢を立て直したい。そして
最もいい形で、大会に臨みたいんだ…!
「…全部 誤解だって、みんなの」
「………どういう事…?先輩…っ、」
無理して 出来るだけ穏やかな笑顔を向けた。
「とにかく、今は 大会の事だけしか考えられないし…、それはきっと 主将も同じ気持ち
だろうと思う。…全力を出し切るまでだ、最後の大会だから。」
「─────………。」
多恵もようやく 涙に濡れた顔を上げた。
「ホント、…そういう傷じゃないって。───…信じて、」
多恵は まだ煮え切らない表情をしていたけれど、オレは辛抱強く 彼女の返事を待った。
そして多恵は、小さくうなずいた。ようやくオレも ホッと 肩の力を抜く事が出来る。
「…じゃあ。オレ、今日はもう このまま市営プール行くから。」
「あっ、あたしもお昼っ、そこのコンビニまで買いにいかなきゃ…っ」
多恵はそう言って、涙を払うと 笑顔に戻り、バッグを持って オレの後を追いかけて来た。
─────正午、校門を曲がる。
そして そんなオレと多恵の、曲がり角を曲がった すぐ真正面。
「………累…、」
制服姿で息を切らしながら こちらに向かってくる瑞香が居た。

くっそ…、なんて ツイてない…!
ホント ツイてないよ、もう…っ!
オレの隣りには多恵。…しかも 今日に限って2人きり。…前から来た瑞香。道幅の広く
ない歩道は 学校の塀伝いに、ガードレールまで 取り付けられている。…つまり オレ達、
どこにも 逃げ隠れなんて出来ようも無い。この細い道を すれ違うしかない訳だ。
「─────………、」
瑞香は ギクリと立ち止まる。… 不審に思って オレと彼女を見比べる多恵。
今もオレ達の頭上、容赦なく照り付けている太陽。見開かれたままの、瑞香の瞳。
「………先輩?」
見上げてきた 隣りの多恵に、オレも我に帰る。

─────そして オレの取った行動。
…瑞香を無視した。

すれ違い、歩き出す。背後でまだ 瑞香が立ち止まったまま、こちらを振り返っているのも
感じてた。…多恵も不思議そうに、瑞香のほうを振り返っている。
オレだけが トレーニングパンツのポケットに両手を突っ込んだまま、足元の歩道しか見て
いない。
─────ごめん、瑞香。
だけど オレ、ちょっと………今はダメだ。
今朝のつまらない事件で、正直 ウンザリしていた。…疲れてしまった。
今は瑞香と これ以上、何を話していいのかも 分からない。
判ってる、お前のせいじゃない。
オレが勝手に お前のもう一人の男に嫉妬して………オレ一人がお前の事 信じられなく
なって、不安に振り回されて、オレ一人が心掻き乱れ、オレが撒いた種が 今朝の部活内
でのイザコザを作ってしまい………。
「あぁ、もうっ。」
一人ごちて、前髪をグシャリと握りつぶした。額を拳で小突く。
ウザい、ウザい、ウザい。
─────最後の大会なんだ、集中したい、こんな事に煩わされたくない、どうかオレを
これ以上 乱さないでくれ、オレの心の中の 瑞香。

「─────…どこ行くの ?! 累っ、」
切羽詰った 瑞香の声。
オレの背中に向かって、高い声で 叫ぶように引き止める。
「……………………っ、」
あぁ、もうっ。
─────仕方が無く振り向いた先には 案の定、今にも泣き出しそうな、小さな子供
みたいなカオした彼女が 食い入るようにオレを見ていた。
「─────………。」
気まずい空気。…多恵は オレ達2人から目を逸らすように立ち尽くし、うつむいている。
オレはポケットから両手も出さず、微笑う事もできずに瑞香を見た。
彼女は 何とも言えない雰囲気のまま、おずおずと こちらへ近付いてきた。
「………あ、あのねっ、………お弁当………。」
彼女は 紙袋を顔よりも高い位置まで持ち上げて 差し出し、それで うつむいた顔を隠し
た。
「かっ、買いに行くところだった…?は、はいっ、…これ………、」
あぁ、もう………っ!
悪いけど、苛立ちだけが みるみる オレのこめかみにつのった。
どんな気持ちで 今、瑞香が 声を振り絞ってオレを呼んでくれたのか、どんな気持ちで 今、
震える指のまま それを差し出しているのか、解かるよ…、痛いくらいにさ。………きっと
昨日の、あの男と笑っていた場面を見ていなければ、─────あのキスを 見ていな
ければ、感激に打ち震えていたかも知れない。
だけど。
今のオレには 彼女の行為は、どっちの男にもいい顔する ズルい女の、健気に見せかける
演技にしか映らなかったんだ。

「─────…悪いけど、」
「………えっ…、」
「もう放っておいてくれよ、大会まで。………オレ今、お前の事まで 考えてる余裕無い。
…お前には解からないだろうけど、オレ マジなんだよ、最後の大会なんだ、…邪魔する
な、掻き乱すな」
★甘栗のちゃちゃ。
みずほ:背中に傷ねぇ。(冷ややか)
まさき:弟が悪いよなっ!なっ!なっ!
みずほ:当然だ、自業自得だ。因果応報。
まさき:「因果応報」ッ!(爆)!弟にピッタリな四字熟語だッ!ちなみにちいちゃんにピッタリ
    な四字熟語は?!
みずほ:『馬耳東風』。…のれんに腕押し、ぬかに釘とも言う。
まさき:……………(やや笑いを堪えているらしい)んじゃあオレは?
みずほ:『暗中模索』(笑)。もしくは後悔先に立たず(爆)!!
まさき:え〜!じゃあオレとちいちゃんセットだと?!
みずほ:『呉越同舟』?
まさき:(ちょっとムッ)お前にもピ〜〜ッタリな言葉をやるよ。『紆余曲折』&『竜頭蛇尾』。
    『9回裏、いいところで三振』!!はっはっは〜!
みずほ:うるさいなッ!それ四字熟語じゃねーってッ!!さて、弟の運命は?!乞待次回!

「弟以上、恋人未満。」−5    Written by; Tamaco Akitsushima