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「弟以上、恋人未満。」    Written by; Tamaco Akitsushima

                  6 恋人じゃなくなった。

 あたしは どこをどう歩き、自宅に辿り着いたのか分からないほど 動揺していた。
玄関の扉を開け、誰も居ない自宅のガランとした土間を見るなり、込み上げて来る涙を
抑え切れなくなって、その場にしゃがみ込み、肩を震わせ泣いた。
─────累………っ!
ショックだった、やっぱり2人並んでると、あたしよりもずっと 岩田 多恵のほうが 累と似合っ
てる。
あたしは てんでガキだ。
彼にお弁当の入った紙袋を投げつけて、さんざんヒステリックに ののしり声を上げ、彼が
何か言い返す前に、耳を塞いで駆け出した。
………まるで幼児だ、これじゃ。
だけど それくらい、累は あたしを困惑させる。
あたしはそれくらい、彼に夢中だ。

───── 元はと言えば、今朝の事。ううん、正確には 今日の昼前、11時すぎ。
あたしは ケータイの音に起こされた。
「瑞香 ?! まだ寝てるの ?!」
お母さんからだった。
「………えっ…、何、」
窓から差し込む光は、やたら強くてまぶしい。まだ寝ボケている頭は 真っ先に思う。
累?起こしてくれなかったんだ ?!
「累くんにお弁当 持って行ってあげて」
「え ?!」
言われている意味が 分かんなかった。
「───…おかず、用意してあるから。ごはん暖め直してね」
「…何で…?どうしてよ」
母は今日に限って、累の分のお弁当を あたしに持って行くように言った。あたしは 何で
そんな事言われなきゃならないのか、意味が分かんないっ。
「…だって もうすぐ大会でしょう?今週末じゃない。ちゃんと栄養のあるもの食べて、頑張っ
て欲しいから。」
「そんなの…、なんであたしが…っ」
「ホントは持たせてあげたかったんだけど 朝 時間がなくって。…今からなら ちょうど温かい
まま食べられるでしょう?どうせあんた 毎日暇してるんだから、それくらい 協力してあげな
さいよ、家族じゃない」
「─────………。」
お母さんは多分、あたしと累がケンカした事に 気付いたんだろうな。
でも…っ。何よっ、必要以上に 家族、家族って。血の繋がりがないからって みんな努力
しすぎ…っ!何かもう…っ。面倒くさいよ…っ。

 あたしは 実はこの時、自分でもはっきり自覚してなかったけど、ちょっとショックを受けて
た。…ここのところ毎朝 累があたしを朝食の時間に起こしに来てくれていたから、今朝も
そうだろうって思い込んでた。………朝、彼が ここに姿を見せたら、絶対に昨日の夜の
事、謝ろうって。カイジの事にしろ、ホントの事 言わなきゃ、って決めてた。ヘンな見栄とか
意地とか…そんなものより あたしは累のほうが大事なんだ、こんな事してたら あたしと累、
壊れちゃうよ…っ。彼に愛想をつかされる…っ。
…そしたら今度は 考えがどんどん悪い方向へ転がり落ちちゃって、どんどん激しく緊張し
ちゃって 全然眠れなくなって───…でも、気が付いたら 明け方頃から寝ちゃってた
みたいだ。
─────累、起こしに来てくれなかった。
…そうなんだ、あーそうっ、いいよっ。
「……………………。」
でも………。
やだな、このまま 気まずい時間が続くなんて…。
そんな訳で 結局 あたしは制服に着替え、途中までしか完成してないお弁当に 残りを
詰めて、おずおずと高校に向かった。
あたしはこの時、全く知らなかった。…累が今朝、水泳部で大変な目に遭ってたなんて。
そして、今に至る。午後1時。

 泣きながら自宅へ逃げ帰り、泣きながら私服に着替えようとしていたら、ケータイメールが
届いた。
「………カイジぃ………、」
あたしは そのメールを見ながら、ケータイを胸に抱き締めて 余計に泣き崩れた。
彼からのメールは、たてつづけに 3件も入ってた。

─────『ヤホー!V(^0^)今日もマジ ヒマしてるなら 会おう★』

─────『実は昨日の夜 お前の事ばっか考えてたら 徹夜しちゃった。こーゆーマジ
モード、引かれそうでオレっぽくないし やっぱNGか。でも 会えたらすごく嬉しいかなって
思ってる』

─────『ごめん!さっきの取り消し!とにかく今日も いい天気!ヒマしてるなら来い
よ、中学の時のやつら 他にも呼んでもいいし★みんなで騒ごー』

「─────………。」
冗談と冗談の間に、てんで彼のイメージじゃないメールが 挟まっていた。
それを何度か見ていると、余計に 胸が締め付けられて。
こんなグラグラな時に カイジと会っちゃったら、あたし マジでヤバいよ…っ。今 2人きりで
優しくされたら…ホントに、今度こそ 冗談が冗談で 済まなくなってしまうかも………。
どうしよう、あたし…っ、ホント、どうしよう………。
あたしは悩んだ末、親友のワカに 相談した。

 ワカの答えは、あたしの予想とは全く違ってた。
大人っぽくて遊び人なワカは、年上の男の人からモテモテな女の子。…きっと あたしの
子供じみた恋愛相談なんか、笑い飛ばして まともに聞いてくれないかも、と 半ば怯え
ながら、ここ1週間ほどの───…累との事や、昨日のカイジとの事を くぐもった暗い
声で話した。
…累については、まさか あの 「片桐 累」 だなんて言えなくて、テキトーに 『同い年の
高3の男子』 と濁したけど。
ワカは絶対に 高校生の彼氏なんか作らない。付き合う価値、ゼロだって。いつも そう
言っているから、きっと今日も 「そんなのやめちゃって 大学生とか もっと年上にしなよ」
と 呆れられるに決まってるって思っていた。
「…瑞香。…誰が好きなの?どっちが好きなの?」
「─────…えっ………。」
「あんた、両方好きとか そういう器用なタイプじゃないじゃん。その彼氏と、中学の時 好き
だった男とどっち?」
「─────…。………か、彼氏」
ワカが 電話の向こうでため息をつく。
「…だったらさぁ、今 会いに行くのは、彼氏のほうに決まってんじゃないのー?」
「えっ!…で、でも…っ!…迷惑なんじゃ…っ、」
「だけど!まず そっちのほうハッキリさせてからじゃん、次の男 行くにしてもさぁー」
その露骨な表現の仕方に、あたしは受話器を耳に当てたまま 赤面した。
「ハッキリって………っ、」
「だからさ、彼氏の もう一人の女でしょ、まず。…それホントに二股かどうか ちゃんと確認
しなよ」
「ウ、ウソっ、そんなの…っ、ムリムリ、出来ないよ…っ、」
「………だからって、じゃあ確認するの怖くて もう一人の男と会っちゃったらさ、あんたもう、
そっちのほうに ズルズル流されちゃうんじゃないかなぁ」
「………う。」
図星…かも知れない。
「確かめるのが怖いからって、会うの避けてさ、楽な男に流れてさ、それで今度は キスだけ
で終わんなかったらさ、………多分 余計にこじれるよ?そしたら あんたの性格じゃ、もう
申し訳なくって 彼氏とまともに会えないって。」
「……………………。」
「ちょっとぉ?瑞香?…もしもし?…聞こえてる?」
「…う、うん…っ…、あまりに 的確すぎてさ………っ、」
ワカは声を立てて笑った。
「やっぱさぁー、好きかどうかじゃん?あたしだって 本気になれるコが現れたらさ、そいつが
クルマ持ってなかろうが 超ヘタくそな高校生だろうが、そっちと付き合うって!」
「そうなんだぁー ?! 意外…!」
「まぁ 出てこないと思うけどねー、そんなコーコーセー」
言い終えて またワカは夏っぽい声で笑ってみせた。こんなワカって ホント、痺れるほど格好
いい女の子だ。
そして 電話はカラリと切られた。…ワカはいつも、用事が無いのに ダラダラ長電話なんて
しないほう。
「─────…よし。」
あたしは ワカに心の底から感謝しながら、意を決した。
気分は 当たって砕けろ、の特攻隊。
撃沈してもいいっ、もう一度、学校に行く。…確かめる。怖いけど……っ。やっぱ、昨日の
事とか、さっき投げつけた お弁当の事とか、ちゃんと謝るべきだし…!
─────あたしは、再度 学校までの道のりを歩いた。
…これが 今日という日を、あたしと累にとって 決定的な 『ツイてない日』 に変えてしまう
とも知らず。

 いくら 俯きながらゆっくり歩いたって、高校までは すぐに着いてしまう。何度も 何度も
道すがら、怖気づく自分を奮い立たせなければ 前に進めなかった。脚に震えが来て 膝が
カクカクした、ロボットみたいに。
今日も炎天下、累のギャラリーは フェンスに居た。
だけど 何だか様子が違う。
「─────………、」
あれ?累は?
………プールサイドの どこを捜しても、彼は居ない。
「 ? 」
どうしたんだろう…、困ったな。
あたしは キョロキョロ辺りを見回しながら、更衣室のほうへも回ってみる。…誰も居ない。
部員の人たちの表情も、何だか今日は 様子が奮わない。
…まさか、累に何かあった… ?!
嫌な胸騒ぎが 一気に襲う。落ち着かないあたしの目線は、岩田 多恵を探した。
…彼女も ここに居ないのかな、…だとしたら さっき、2人はどこへ向かってたの… ?!
─────多恵は居た。
…彼女らしくなく 暗い顔してたけど、プールサイドにしゃがみ込み、何かをメモして、その後
手にしたストップウォッチを触っていた。
少しだけ ホッとした。
随分 陽は西に傾いていて、まだ ギラギラの太陽は健在だけど、きっと多分 この後 順番
にタイム測って、あとは水から上がって 筋トレして、部活のメニューは終了だ。
けれど その時刻になっても 主将も累も姿を見せなかったので、ギャラリーの女の子達も
「帰ろうか…」 と 口々に退屈そうな会話を始めた。
「………ね、ねぇ…、」
あたしは意を決して その場に居た2年の女子達に 声を掛けた。
「何があったの?今日…」 と口に出しかけた時、「ねぇ ねぇ ねぇ!ちょっと ニュース ニュー
ス!」 そう上ずった声で その場に戻って来た 別グループの女子の声に、みんなが一斉に
注目した。
あたしは 彼女の口から聞いたその話に、愕然とした。
………え ?! 累と主将が ケンカ ?! 殴り合いっ ?! それで2人とも お昼には部活自粛
って事で帰宅した… ?!
信じられるはずなかった、そんな話。
だって累が……… ?! 殴り合いのケンカって…、間違っても そういうタイプじゃないよ…?!
「原因はやっぱさ、岩田 多恵だって…!…なんか取り合い?それで殴り合いにまで発展
したらしいよ…?」
「 ?! 」
ウッソォー、マジ… ?! と、周囲の女の子達からも ザワめきが漏れる。
「片桐先輩、こっそり岩田 多恵と 付き合ってたみたい。…水泳部内でそーゆーのは禁止
って事になってるのにさ。…で、主将も 岩田の事が好きだったみたいでさ、」
「……………………、」
「───…でも一応、片桐先輩のほうは 明日から部活に戻れるんだって。主将は大会
には出られるけど、当日まで 部活は謹慎なんだって!」

あたしは今日、2度目の大きなショックに もう フラフラだった。
目まいはひどくなるし、何も考えられないし。
見上げた先に立つ、マネージャー。…さっき彼女は累と2人きり、何を話していたんだろう。
………やたら 並んでいる姿が絵になってて、しっくりしてた2人───…。
あたしを見た時、無視して通りすぎようとした 累。
やっぱり 付き合ってるんだ…!
じゃなきゃ、何で あたしの事、昼間 無視したの…?!
きっと あたしとも付き合ってる事、岩田 多恵に知られちゃヤバいから…?! そうなんだ…?!


自宅に戻って。カイジに 『今日は行けなくて ごめんね』 と返信して。
じっと累が帰宅するのを待つ間、時計の針はやたら遅くて、あたしの心を余計に揺らした。
8時前。ようやく彼が戻ってきて、そのまま 2階へつづく階段を上がってくる音が聞こえた。
あたしは廊下に飛び出し、自室の扉を開けかけていた彼を 捕まえた。
「累ッ!」

彼の部屋。ウェア姿のままの累は、あたしを見るなり また大きく 疲れたため息を付く。
バッグを ドサリとその場に落とし、両手はポケットの中。唇の左端が 少し切れてて、血の
痕が残ってた。
あたしは 何から訊けばいいのか判らず、支離滅裂に 思いついた端から責めるような言葉
を 次から次へと累にぶつけた。知らず、彼に詰め寄って。
「何よ ?! ちゃんと説明してよ、」
「─────…だから………元はと言えば 昨日の夜の…、」
「は ?!」
「…お前が 『ガリッ』 って…、」
「 ! 」
彼は こっちを向かない。あたしに顔を背けたまま、気落ちした声で ボソボソ告げる横顔。
「───…オレの背中に…爪痕…思いっきり」
「 ッ ?! 」
…え…っ ?! 何…、何っ ?! あたし ?! 爪痕ッ ?! はぁっ ?!
話が掴めなくて。彼が一体、何を言おうとしているのかが 読めなくて。てっきり 多恵との
事を言い訳してくると思ってたのに、…昨日のあたしの… ?! 背中にガリッ ?!
累はまだ 向こうを向いたまま、今度は何となく やりきれない様子で天井を眺めた。
「………それを…主将が見て…、…オレに 殴りかかってきやがってさ………」
え?! え?! 話 見えないよ…っ?
目をパチクリしながら 累を見上げていたあたしの表情が 余計に彼のかんに障ったのか、
累は あたしをようやく向き直ると、より一層 眉間を険しくした。
「わっかんないよ 累!ちゃんと 最初から話してよ…!」
「…だから。…オレの背中の傷が…それが 誤解を生んでさ…。オレとマネージャーが 付き
合ってるってカン違いした主将の奴が…。一応、部活内での恋愛とか、禁止だから…。」
─────つまり、話は こういう事らしい。
どうやら水泳部の主将は、マネージャーの岩田 多恵が好きで…、でも岩田 多恵はどう
見ても累のことが好き。…で、結局、今朝、男子更衣室にて、誤解が発生したらしい。
…殴りつけた主将も、大会までの3日間、部活は自粛。…累は 悪くは無いとは言え…
彼の背中を見た女性体育教師は 「いくら何でも大会を目前にして不謹慎じゃないの?」
と…。原因を作った彼にも、今日だけ 部活の自粛。

でも………っ。それにしても…。その話、肝心な部分が抜けてない… ?!
「だけど 累、ホントは付き合ってるんでしょ、岩田と………っ、」
「付き合ってない。」
「ウソだ…っ!だって今日、累のファンのコ達、そう言ってたもん!」
「知るかよ、そんな噂まで…!」
累も かなり苛立っている様子だった、あたし以上に。
「じゃあ何で 今日、あたしの事 無視したの…?! やましい部分があったからじゃん…っ!
別に岩田と付き合ってないならさっ、あたしの事が岩田に知れたって いいはずなのにっ、
隠したじゃん、累っ」
「そんなんじゃねーって… !!」
「絶対そうだよ…ッ!今さら 言い訳ばっかしないでよ…っ!」
「もうやめろって… !!」
「─────………。」
累は ベッドの縁に腰を落とした。大きくため息をつくと、うるさげに前髪をかき上げ、肩を
落とす。
「………瑞香………。」
「……………えっ………、」
珍しく累は、あたしの目を見なかった。
「───…多恵の事、岩田なんて 呼び捨てにするな」
「…っ…、」
低く押し殺したようにも聞こえる、つぶやき声。それを聞きながら 唇を噛む。
「………ちょっと、期間置こう。」
「………え、」
あたしは言われている意味が解からず、その場にうろたえた。
「…頼むから。オレの事 しばらく放って置いて。………大会終わるまでは、もう余計な事
考えたくない」
「…どういう………意味…?」
彼は 片手で顔を覆う。
「オレを かき乱すな。…オレも ちょっと…冷静になって考えてみるから、お前の事。」
「─────…何それ…ッ、何それ 勝手な事…っ、」
「瑞香。」
ようやく、累が あたしを見上げた。
「………今は水泳の事に集中したい。…分かって。」
「…じゃあ…っ、あたしは ?! どうしたらいいのっ、」
階下から、母が呼ぶ声が聞こえた。…夕食の用意が出来てるから、2人共 早く降りて
いらっしゃい、と。
累は 今日の昼間のように、あたしの脇をすり抜けようとした。
「待ってよ !! あたしは…っ ?! あたしっ カイジと会うかもよ ?! 累ッ!」
ドアノブに手を掛けた彼は、こちらを流し見た。
そして、緩やかに微笑う。
何 ?! その笑い方…っ。それも何かっ、はぐらかされてるみたいで すっごく癪に障るよ… !!
「─────…この話は、大会が終わってからにしよ?」
声も、何だか感情の見えない 静かな声に戻っていた。すっごく 累らしくて…そつの無さ
過ぎる声。
「……………どういう事よお…っ、」
すがるような目で 彼を見上げていたあたし。
「───…じゃあ、もう 別れよ?それでいい?」
「 ! 」
─────えっ…。今なんて… ?! ワカレル… ?! 『別れる』 って言った…っ ?!
累の瞳はもう、笑っては居なかった。刺すような視線は あたしを改めて流し見てくる。
「…どうせお前、会うじゃん。オレが居たって あいつと会うんだろ…?」
「ッ !! …何それ…っ…、」
「───…だったら いいよ。お前と付き合ってる、って思うから オレも煩わされるんだ、
だったら もういっそ、何も無い状態に戻したほうがマシ」
「そんな…っ!超 身勝手じゃない…っ ?! 累、ズルいよ、累、」
「もう疲れた、…昨日も今日も。…色んな事がありすぎて…っ、」
「そんなの あたしだって…ッ!」
累の声は、あたしの怒鳴り声に負けじと 上から覆い被さる。
「じゃあ お前は一度だって考えてくれたかよ ?! オレ、今週末が大会なんだぜ ?! 必死
なんだよ、この大会に賭けてるんだよ、自己タイムも更新したいし、最後の大会だし、
せっかくだから 絶対 悔い残したくないんだよ… !! お前、そういうオレの気持ちとか、一度
だって考えた事あるかよ ?! どうせお遊びでやってる部活だ、って 思ってんだろ ?!」
「……………………っ…、」
─────残念ながら、もう あたしに返せる言葉なんて、どこにも無かった。
「─────………。」
累は あたしから顔を背け、静かに階段を降りて行った。
うつむいている背中。落ちたままの肩。
あたしは それを目で追いながら、頭をハンマーで殴られたようなショックに、呼吸さえ忘れて
いた。
「……………………、」
確かに、彼の言う通りだった。
あたしは ただの一度も、彼の部活について思いやる事なんて、思いつきもしなかったし、
自分の事ばかりで精一杯だった。
彼を どうやったらあたしのほうに振り向かせられるのか。…彼の視線と気持ち、24時間
ずっと あたしの方を向いてなきゃ、やだった。
そればかりに気を取られて、苛立って、ヤキモキしてた。
岩田 多恵の事だって。
─────あたしから 累と居る時間を奪う、憎らしいほど可愛い女の子。
彼の 「水泳部」 という世界の輪の中に、あたしは入れない。
だから あたしの思考から、「水泳部の累」 の部分を排除したかった。
それ以外の累を、「累の全て」 だと 思い込もうとしていた。
─────彼が 大会を目前に控えて、どれほどナーヴァスになってるかなんて事、考え
もしなかった。

─────こんなあたし、累の彼女の資格 ないよね………。
こんな 情けなくって子供なあたし、やっぱり累とは 全然 釣り合ってないよ………。
累にフラれたって 当然だよ………。

「───…っ…ぅ、…っえ…っ、」
分かってる、泣いたって どうしようもない。
………たった、一週間足らず。
累は、あたしの彼氏じゃ なくなった。
★甘栗のちゃちゃ。
まさき:あぁ〜っ、つらいよ〜、わー、意味もなく焦るよ〜、やだな〜。
みずほ:うーん…オレもつらいよ…、こういう状況、一番痛いよな。
まさき:こんな軽々しく別れられるの?! 信じられないよ〜弟!
みずほ:世の中の男の考える事はオレには解からんッ。お手軽すぎるんじゃないのかよ〜?!
    好きならッ。付き合うなら、一生ッ半世紀 添い遂げる覚悟で付き合えッ!弟!
まさき:そうだろ?! 絶対そうだよなぁ〜!いい事言うなぁ お前!(ガシッ)
みずほ:おお〜初めてこの意見に賛成してくれる人物が…!!(感動中)
まさき:嗚呼オレ、なんでお前みたいな奴と付き合わなかったんだろう…、うう〜ん。(悩む)
みずほ:そこが運命の皮肉なところ。…フー。…まぁ茶でも飲めよ。
まさき:うん…。悟ってるな、お前…。そして、しんみりと次回へ続くのだにゃ〜。

「弟以上、恋人未満。」−6    Written by; Tamaco Akitsushima