7 カイジの友情。
失くしてみて初めて解かる事って、色々ある。
あたしって すっごく子供だよね…、情けないくらい子供だよね。
いつの間にか、累に甘えてた。
累に好きだって言ってもらえて、それだけで有頂天になってた。…彼の言葉 鵜呑みに
して、手に入った彼の笑顔と優しさに、余りにも無防備になった。
でも それくらい、あたしにとって彼の告げてくれた 「好き」 は大きかったんだよ…?
あたしって結局、累にとって何だったんだろう。
………岩田 多恵が居るなら、何であたしに あんな事言ったの?
ただ からかわれたのかな?
あたし、遊ばれたんだろうか。
─────…ダメだ、受け入れられない。
そんなの、受け入れられる訳ない。
累、あたしの事 まだ好きだよね…?ホントは冗談だよね…?
さっきの言葉、怒って言っちゃっただけのはずみでしょ…?岩田 多恵との事だって、ホント
は付き合ってなんかないよね…?もしも付き合ってるとしたって、…きっと 別れを切り出せ
ないだけだよ、累は あたしを選んでくれたんだから…っ。そうなんだから…っ。
「………っ、ぅ…えっ、えっ…」
あたしは累の部屋で 独りしゃがみこみ、いつまでも泣き続けた。
階下から母が 何度もあたしの名を呼んでいた。それでも膝頭に顔をうずめて泣き続けた。
喉がヒリヒリ痛んだ。まるで 焼けただれてるみたいに。
…きっと ここでそうしていたら そのうち累が、困ったような顔しながらも 「しょうがないなぁ」
って戻ってきてくれる。あたしの髪をそっと優しく撫でてくれて、「さっきのは冗談だから」 って
言ってくれて…慰めてくれて、そしたらあたしも 今度こそちゃんと 「ごめん」 って言って…っ。
けれど いくら待っても累は戻って来てくれなかった。母は 「勝手に食べなさい!後片付け
も ちゃんとしなさいよ」 と苛立ったように階下から告げると、それ以後もう誰も
あたしに声を
掛けてはくれなかった。
すっごく惨めだ。
………もう どうしていいのか分かんないよ…っ。
累が部屋に戻って来たのは 1時間近く経ってからだった。
あたしは 彼の部屋の戸口で、泣き疲れ、膝を抱えたまま壁にもたれていた。
「…ごめん、出てってくれる」
彼があたしに告げた言葉は それだけで。
もう あたしの方を見ようともせず、背を向けたまま デスクに向かって腰掛けた。
─────何か、決定的だった。
背中全体が、あたしの事をハッキリ拒絶してた。
さっきの彼の言葉が、ウソでも冗談でもないんだ、って。ようやくあたしも 認めるしかなかっ
た。
「もう どうしたらいいのか、あたし分かんないよ…。」
あたしの心の声は、つぶやきになって漏れていたみたいだった。…でも 累は、振り向かな
かったし 何も言わなかった。
…翌日の早朝。ほんの1%、期待しながら待ってたけど、累は あたしを起こしに来ては
くれなかった。彼が 静かに廊下から階段を降りていくのを、あたしはベッドの中で
身を縮め
たまま聞いた。
─────その日は一日、ベッドから出る気がしなくて うずくまっていた。母が呆れ顔で
出勤前に部屋までやって来たけれど、すぐに出掛けて行ったから、その後 この家はガランと
虚しい空気に包まれた。
誰も居なくなってから 1階に降りて、シャワーして、適当に あるものをつまみ食いした。
…ゲンキンなものだよね、あんなに泣いても、死にそうなくらい胸が苦しくても、お腹が減る
んだもんね。
…そして みんなが帰ってくる夕刻になると またベッドに潜り込んで、いくら母が 階下から
呼んでも、絶対に降りていかなかった。
「えーっ、じゃあ 瑞香、告ったその日にヤラれちゃって、一週間でフラれたんだ
?!」
ワカは 声を立てて笑った。
もう死にそうな気分で電話したのに、普通そこで笑う… ?! デリカシーない奴ッ!
ベッドの中、声も出ないあたしに、ワカは 更なる追い討ちをかける。
「ヤリ逃げかぁ、フハハ」
「───…っ ひどい…ッ…、」
「ごめん ごめん、だって…っ、あまりに瑞香らしいよ、それ…っ」
「笑うなっ !!」
ワカは急に声を潜める。
「こーゆー事は 笑って済ましたほうがいいんだってば!シリアスに落ち込んじゃうと 余計に
尾を引くよ ?! …でもさ、それって相手 ホントに高校生?…まさか うちの店でバイトしてた
時の お客さんとかじゃないの…?」
「違うっ」
「でも うちのガッコのコじゃないよねぇ?」
「……………、」
「えっ?そうなんだ ?!」
「違うったら!」
「だけど知らなかった、瑞香 全然そんな話してくれなかったからさぁー、何かあたし、この前
聞いた時も ちょっと寂しかったよ。……にしても そいつの事、そんな好きだったんだぁ…。」
「─────………。」
「えっ?もしかして瑞香、そんなマジだったの?」
「─────………。」
「あッ!ひょっとして初恋 ?! …てか 初エッチ ?! さすがに そんなワケないかー、ハハハ」
「─────………。」
「えーっ ?! マジ ?! …そりゃ ちょっと…アイテテだね、ごめん、…ごめんね笑ったりして…、
それは厳しいよね…、初めてってのは…」
「…そんなんじゃない…っ !! ただ悔しいだけっ!ふ…二股なんてさっ!超 ムカつくよ!」
「それは確かめたんだ、」
「─────…ハッキリ確かめた訳じゃないけど…っ。う、噂で そう聞いたもん。みんな
そうだって言ってるもん」
「………ふーん………。とにかくさっ、」
「えっ」
「…カラオケでも行こっか!ね?ミドリも誘う?」
「誘わないッ !! 絶対イヤ !!」
「─────………。」
…しまった。きっとワカは 今のあたしの発言で、あたしを振った相手の名を 察してしまった
はずだ。あたしの心音は にわかに激しく鳴り出した。
ワカの口から片桐 累という名を出される事が、なぜかその時 とてつもなく怖かった。
…その名を聞くと そこからなし崩しに墜ちてしまって、もう立ち直れなくなりそうだったから。
まだ、心のどこかは 激しく泣き叫んで拒否してた。片桐 累に 振られた事実を。
ワカに訊かれて、答えたくなかった。「累に振られた」 なんて。
だけどワカは 何かを考えるみたいな気配のまま しばらく押し黙ると、あたしの気持ちを読ん
だように 話題を変えた。
「…とにかくさっ。もう そいつの事は忘れて次行こう 次っ!そうしなよ?ねっ?夏休み始ま
ったばかりだしさ。…よっし、じゃあ もう一人の男!中学ん時の同級生!そいつの事、ホン
トに安全な奴かどーか、まずあたしが確かめてあげるよ!会わせなよ」
「…カイジと…?」
「うん。テキトーに 2対2でもいいし。一緒にカラオケ行こう!」
「……………。考えとく………。」
今はとても 人と会う気分じゃなかったし、カラオケでカイジと盛り上がる気分でも無かった。
翌日もあたしは 累に当て付けるみたいに ふて寝していた。
カーテンから差し込む夏の日差しが敵に思えるくらい、外の天気は あたしの心と正反対。
オレンジ色した陽だまりが 部屋の中に陰影を作っていて。それがやたらに この世の幸せを
象徴してるみたいで、いまいましく頭から上掛けを被った。
「 ! 」
ビックリした。メール着信音。…ケータイ、昨日 枕元に置いたままだったから。
ワカとの電話を聞いていたかのように、カイジから。
─────『ヤホーV(^0^) 瑞香ヒマしてる?遊ばない?』
のそのそとベッドから起きると、もう 昼近くになっていた。
「……………………。」
どうしようかなぁ…。
もう 累にフラれた今、あたしって フリーなんだよね…。カイジと遊びに行ったって、別に誰に
良心の呵責なんて感じなくっていい。
だけど………。あたし上手く笑えるかなぁ、カイジの前で。
ひとまず起き出して、シャワーする事にした。
洗面台の鏡に映る自分を見たら、2晩泣いてたせいで、まぶたは腫れ上がっていた。抜け
殻みたいに覇気もないし、澱んだ 冴えない表情、我ながら。
「ヒドいカオ…、これじゃ会えないや…、」
思わず独り言。…そしたらやっぱり それを聞いてたようなタイミングで、今度はカイジから
電話。
「なぁ、メールみた?」
「………うん。」
「今日、オレん家 来ない?」
「えっ ?!」
─────オレん家 ?! いきなりっ ?! そ、それって…っ どういう意味ッ ?!
にわかに走る、胸騒ぎ。嫌な予感。
………やだ、もしかして カイジまであたしの事、お気軽な女って思ってるのかな…、今の
あたしって そんなに遊んでて軽そうに見えるんだろうか ?! すぐ ヤらせてくれそうって?
何て答えようか迷ってたら、カイジは 予想もしない事を告げた。
「今日、久々に 姉ちゃんが帰って来たからさ。あ、知ってる?姉ちゃん今 東京でヘアメイク
の仕事してんだよ。お前、話 聞きたくない?専門ガッコの事とか」
「 ! 」
───初めて入る、サイカ屋。お店を横切って、その奥の階段を昇れば、2階はカイジ
の自宅のリビング・ダイニングと ご両親の部屋になってる。3階は カイジとお姉さんの部屋
みたい。
サイカ屋は 中学の頃と変わっていなかった。懐かしい。毎朝ここで パンとか
おにぎり買っ
てた。だってうちのお母さん、朝忙しくて お弁当作る時間なかったから。…かと言って自分
でするのも面倒だったし、何より カイジのお家の売り上げに協力してる、って事実が
あたし
にはちょっと嬉しかった。…あの頃、カイジに憧れてて、彼に夢中だったから。彼にちょっと
でも近付きたかったし、近い存在だと思い込みたかったから。
「初めましてー!カイジのカノジョ?」
「えっ!ちっ、違いますッ!」
カイジのお姉さんは、笑うと けっこう大き目の口から覗く 綺麗に並んだ白い歯が、すっごく
彼とそっくりだった。灼けた肌、ヘアダイした髪も 格好よくって、すっごく都会的!何てハツ
ラツとしてて、目立つタイプの美人なんだろう。…他人を圧倒する雰囲気っていうか…
ちょっと ワカと近い路線だ。
「髪切らせてくれるって ホント ?!」
「え!…切る ?! 聞いてない…、」
「何だー、ダメなのかぁ。もうっ。」
「………っ、」
困った、こう露骨に感情を表に出されると あたしはすっごく硬くなってしまう。
「いーじゃん、瑞香っ、な?この通り!」
麦茶のグラスを持ってきたカイジが、背後であたしに向かって 拝むみたいに手を合わせた。
「姉ちゃん絶対 お前の事、今より可愛くしてくれるから!」
お姉さんが カイジに向かって、「もうっ!初めっからちゃんと カットモデルって、そう言って呼び
なさいよ!」 と毒づいていた。
「あ、あの………、」
「まぁいいや!じゃあ メイクだけしてあげる!」
あたしはすっかり 彼らのペースだ。
カイジのお姉さんは 駆け出しの美容師で、もちろん ヘアアレンジやメイクも出来る。
…着付けも習いに行ってて、将来は フェイシャルエステも出来るようになりたいんだって。
「カイジがうちの店 継ぐと思ってたからぁ。そしたら 継がないって言うじゃん!やりィ!って
思ったね!それ聞いてからもう、あたしがサイカ屋、ゲットしてやる!店の半分をヘアサロン
にしてやろうって決めたっ!俄然 燃えてます!」
カイジが お姉さんの言葉を聞いて焦りだす。
「何だよ姉ちゃん!ヘアサロンだぁ ?! そんなん聞いてねぇ!だったらオレも
オヤジだまくらか
してサイカ屋継いで、オレの店に改造しちゃる!」
「ダメだよー!ヘヘンだっ。一足遅かったね、もう あたしのものだから、サイカ屋は!…あ、
そうだカイジ、あんた もしもホントにプロになったらさ、あたし雇ってあげるよ
あんたの事。」
「ちぇ、何それ。従業員かよ… ?!」
「違う、バイトで。従業員 ?! 社員なんて甘いねッ」
軽やかに声を立てて笑い飛ばす お姉さん。
カイジの家に来るまでの死んだようなあたしは、このお姉さんの、台風みたいなハイなノリに
飲み込まれ、落ち込みを見せる余裕も無かった。
…だけど よかったかも知れない、ちょっとでも累の事 忘れてられる。…ほんの今だけでも。
「ねぇ 瑞香ぁ、何か目、腫れてない?」
お姉さんに いきなり名前呼び捨てで そう指摘されてギクリとした。カイジもじっと あたしの
目元を見ていた。
「まぁ いいやっ、それならそれで うまくメイクの腕を発揮してやるッ。見てなカイジ、あたし
このコの事 今からめちゃくちゃベッピンにしてみせるから!」
カイジは お姉さんに何か皮肉めいた事でも言い返すかと思ったのに、呼吸を忘れるような
視線で じっと姉の手元を見ていた。
………カイジ、マジなのか、ヘアメイクの道に進むって言ってた事…!
あたしは ただただ されるままになるしかなくって。…そして5分後、カイジと同じく、お姉さん
のパレットから繰り出される、普段のあたしとはまるっきり違うメイクの手法に
息を呑んで
いた。
…鏡の向こうに居るあたしは、どんどん 別人になってゆく。…どんどん、どんどん…!
すごい…!うわぁ ホントに違う女の子みたいだ…!
「……………………。」
「瑞香………可愛ええ…!」
仕上がったあたしを見た、カイジの 瞬きさえしない驚きの表情。半ば 開かれたままの
口元。
鏡の中のあたしも 全く同じカオしてた。
「姉ちゃんっ、てめー天才… ?!」
次にカイジが 見開かれた視線を姉に移し、そう言葉を発した。
思わずあたしは 両手を口元に当てて、微笑ってしまった。
結局、髪も切ってもらった。
「悪いけど、瑞香 あんたの今の髪、超 イケてない!」
お姉さんに ズバッと言われちゃった。…ホントなら ショックというより、機嫌損ねてる場面
だ。…だけど あまりにもカラリと言い切られちゃったから、呆気に取られて 腹も立たなかっ
た。
半ば強引に お姉さんのカットモデルをさせられる事になり、あっと言う間に
あたしの髪、
10cm以上短くされて、耳は隠れてるけど 肩に付かないショートになった。
「ホラ、このほうが 瑞香の輪郭、ずっと引き立つじゃん」
背後から 鏡の中のあたしに向かって、また断言する姉。
「ノースリーブとか 肌の出た服 着るなら、絶対 こっちのほうが可愛いって!」
「─────………。」
確かに、自分じゃ 絶対にしない髪形。だけど すっごく可愛く変身してしまった…!
今までみたいな、妙に髪やメイクが大人っぽすぎて年齢に不相応な ちぐはぐした感じも
ないし、ナチュラルで、だけど すっごくオシャレっぽい。…それに けっこうガーリーな印象だ
から、幼くも見えない。
「ホント、あたしじゃないみたいだ………、」
カイジは 更に放心してた。お姉さんは そんなカイジをからかって、彼の背中をバシバシ
叩いた。
あたしはお姉さんから、母校の専門学校の事とか ヘアメイクの道に進むための 基礎
知識を教えてもらって、カイジと共に 駅前に出た。
………今日は土曜日。
いつかの、高架下の大きな交差点。…カイジが ジョークみたいにキスをかすめとった
あの
横断歩道。カイジと並んで歩いていても、すごく緊張してるあたしが居た。
…もう 中学の頃みたいな、ヘンに 憧れとコンプレックスの入り混じった あの浮ついた感覚
は無い。だけどやっぱ、ふい打ちみたいな この前のキスの事を 意識してしまっているかも
しれない。バッグを 両腕で胸にギュッと抱いて歩いた。
「─────………、」
あの時 累と岩田 多恵の姿を見掛けた位置に 目をやる。ちょっと 胸が切なくなった。
あーあ、あたしせっかく さっきまで48時間ぶりに忘れ掛けてたのにな、あの2人の事。
「オレ、お前と歩いてると 鼻が高いよ」
「えっ…?」
「すっげー可愛いから!」
ボンヤリしてたら、隣りを歩くカイジが そう言って彼っぽく歯を見せ、微笑ってみせた。
「─────…なぁ、今日、何か落ち込んでた?お前」
「……………、」
いきなりそう聞かれて、あたしは咄嗟に ポーカーフェイスを装えなかった。
カイジがさっき お姉さんにされてたみたいな仕草で、今度はあたしの背中を 彼の大きな
手でバンバンと叩く。…やっぱ、触れられると ドキッと身を硬くしてしまう。こんな友達っぽい
ノリでもね。
「………あたし、彼氏と ケンカ別れしたの、おとつい」
「 ?! 」
何だか 平気なフリするのも、無理で。それから、カイジへの…何ていうのか けん制も含め
て、何となく そんな事 言った。
『カイジとの事は 今は何も考えられないよ、あたし』 って メッセージを込めて。
カイジは思わず立ち止まり、驚いたような目で、あたしを見下ろした。
「……………マジ…?」
その表情も、低い声も、あたしの予想とは違ってて、あたしはちょっと うろたえる。
「…うん………、」
やっぱり 上手く微笑えない。
そしたらカイジも もう微笑ってない横顔で、目の前に伸びる横断歩道の ゼブラ模様に
視線を落として呟いた。
「───…ごめん、」
「え?何で…?」
「………いや、………色々………、」
「…色々って何」
「───…だから………。この前 会った時の事とか…。オレ、もしも自分の彼女が
軽い
ノリでも 他の男とチューなんてしたらヤだもん、…だから…そーゆー事とか…。お前をヤな
気分にさせたよな、と思って。ごめん」
先に彼氏居るか 聞いときゃよかった、と。
カイジは始終、足元の横断歩道を見つめていた。
その伏せ目がちな視線を見ていたら、何だか あたし、視界が滲んでしまって。往来の真ん
中で、両目から溢れ出てくる涙に どうしようもなくなった。
「…瑞香…っ、」
慌てた彼は あたしの肩を引っ張り、ビルの陰に寄せる。…そして極力 人の目に触れない
ように 盾になってくれた。
あたしは とめどなく流れ落ちる大粒の涙を コントロール出来なくて、しゃくりあげるしか なか
った。
泣きながら、なぜ今 急に泣けてしまったのかを必死で考えた。
─────確かに あの日、あの事で。累と この場所で行き交った事、その時カイジが
ジョークみたいに盗んだキスを 彼に見られてた事は ケンカの直接原因に繋がったかも知れ
ないけど、どのみち あたしと累は 遅かれ早かれ、こんな結末になってたんじゃないかと思え
る。
色んな後悔が 一気に押し寄せた。
カイジみたいに、素直に即座に 「ごめん」 と口に出せなかった自分を 今さらながら心の中
で叱咤した。…だけどもう 遅すぎた。
今、側に居るカイジは、あたしの知らない彼だった。
彼の こんな真摯な表情も見た事なかったし、まさかあのカイジが あたしに対してこんな風
に謝ってくれるような場面も 想像すらしてなかったから。
彼はきっと、「あの時、カイジとのキスを見られてたせいだよ!」 って ハッキリ告げて責めて
も、しれっと舌を出して いたずらっぽく笑うんだろうと思ってた。そんなガキんちょだったはず
だった。
なのに、彼はもう 昔のカイジじゃない。あたしより ずっと背が高くて、あの頃よりずっと男っ
ぽくて、全然 違う雰囲気のカイジだ。
…あたし一人が 取り残されてる。
どうしようもなく 情けない子供だ。
「───…っ…、うぇ…っ、…っく、」
こんな 子供っぽい泣き方も嫌なのに、涙はなかなか 止まってはくれなかった。
累と出会ってから、あたし絶対 泣き虫になってるっ…。
往来で立ち止まったまま、両手の甲で 目をこすっているあたし。
「…おい、せっかくのメイク 落ちる、」
後ろから両肩を 遠慮がちに抱き締めて、カイジは あたしの耳元に告げた。
「───…泣くな、なっ?」
「………っく、ごめ…っ、」
あたしも必死に 泣き止もうと頑張った。
カイジが背中をさすってくれた。…彼の手は、累とは全然違う。…累より もっと力強くて、
ちょっと荒削りで…でも 『友達』 っぽい手。
「……よっし、瑞香っ、今日は お前を励ますために、オレがいっちょ パァッと行ってやる!」
「…、っ、…何それっ、」
「─────…カラオケ !!」
えーっ!やだよ…っ、何 ワカみたいな事 言ってんのっ。ましてや ボックスにカイジと2人きり
なんて…っ、困るよ…!
そう考える間もなく、カイジはあたしの手首を引いて 歩道をずんずん進む。
「………あたし…っ、今そんな気分じゃないよ…っ、」
「今から 同窓会しようぜ !! ボックスで !!」
「 ?! 」
同窓会っ ?!
カイジは あたしの手首を掴みながら、空いたほうの手で パンツのポケットに突っ込んでいた
ケータイを取り出した。
「ウソでしょー ?!」
「ウソじゃねーっ!今からやるっ!召集かけるっ!………あっ!ヤマ?オレオレ、サイカ屋
カイジッ、今どこぉー?」
キャー !! ウソーッ !! ウソみたいだよーっ! マジで 今から同窓会っ ?! カ…カイジが声
掛ければきっと集まる…っ、集まっちゃうよ、あの頃のメンバー!
信じられないっ。あの頃、輪の中に居るだけでも必死だった あたしが、今 こうして彼に
手を引かれていて。そのカイジが あたしのために みんなを集めてくれてて…っ。
「………あ、」
「えっ?どうした?」
あたしはふいに 立ち止まっていた。目の端に入ったのは、路上のアクセサリー屋さん。
陽が落ち始めた、薄紫色の景色の中。黒いフェルトの上には たくさんのミサンガや
ブレス
や シルバーアクセサリー、…それに パワーストーンのお守りなんかが 並んでたんだけど。
「─────…これ………、」
その中に見つけた、イルカのお守り。淡いピンク色した石をカ ットして作ってあるもの。
大きさは 長さ5cmも ないかも?半透明の つるっとした手触り。まるでゼリービーンズ
みたいに可愛い。ひんやり重くて、その感じもいいっ。
「………うん?…どうした?あ、何か要る?買ってやろっか?」
あたしはじっと そのイルカを見つめていた。
─────累、明日大会だ………。
渡そうかな、せめて。
…でも 累は受け取ってくれないかも。
…ううん、家族として渡したら 受け取ってくれるかも知れない………。
いいや、受け取ってくれるとか くれないとかよりも…っ。あたし やっぱり累の事 応援したい
よ…!
邪魔してごめんね、自分の事しか考えなくって ごめんって。
もう許してくれないとしても、あたし ちゃんと謝ろう。…せめて謝らなくちゃ。それから 応援
してるから、って言わなきゃ… !!
「あたしこれ買う…、」
「よっしゃ、オレが買っちゃる」
「いいよ、自分で買う、でなきゃ 意味がないもん」
「………これって 恋愛成就のお守りだって。…お前 何か立ち直り早くねー?」
「─────…いいの、買うのっ」
「いいね いいねっ、前向きっ!」
カイジはお金を払うあたしの横で 声を立てて笑った。
「ち、違うよ…っ!これっ、弟にあげるんだもん…っ、水泳の地区大会 明日だから…!」 |
★甘栗のちゃちゃ。
まさき:瑞香…、ぜったい友達にならないタイプだけど…なんか健気だ…。
みずほ:オレも絶対付き合わんタイプだけど、なんか健気だよな…。(しんみり)不器用なとこ
も他人事とは思えんし…。ハッ!違〜う!
まさき:カイジもいい奴じゃん?思ってたよりさ〜っ。な〜っ?
みずほ:うん、ホントだよな、ねーちゃんの尻に敷かれてるけど。そこもまた庶民的でいいかも
な〜
まさき:もう瑞香ッカイジと付き合っちゃう?みたいな?累、ワカと付き合っちゃう?みたいな。
みずほ:……………。それはちょっと安直すぎるんじゃ…?やっぱ好きになったらもーちょい
頑張らなきゃ。手近なとこで済ませちゃだめだろう〜。
まさき:じゃあ累、カイジのお姉ちゃんと付き合っちゃうとかは?ひねり効かせて?
みずほ:…それ全然違うじゃん。…ちゅうのかお前、そんな事言うキャラだったか?
まさき:ホントだ、何か発言が南っぽくなってるッ?! キャラが間違ってる?! まぁいい、とにかく
堅い事言うな、更新だっ。次回だ!
みずほ:うん〜何か今一今回の「ちゃちゃ」は、まとまり切れんな…。ネタ切れと見た…(爆) |
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「弟以上、恋人未満。」−7 Written by; Tamaco Akitsushima |
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