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「オレ様とプリンセス」    Written by; Tamaco Akitsushima

                  5 2人きりの食卓

 「あたし目玉焼きー!」
「自分で作れ」
「うんっ、じゃあ作る!ミヤPのも 作ってあげるねっ」
「…いい、オレのは自分でやる」
「いいよ、遠慮しないで!これくらいやりますっ!」
………リリカと過ごす、日曜日。
昨日の土曜は やりのこしの仕事で 朝からいつも通りオフィスに顔を出し、その後 クライ
アントに誘われていたゴルフに行った。だから こうして、朝からリリカと一緒に過ごすのは、
今日が初めてだった。彼女がここやってきてから 4日目。
彼女は朝から とても元気だ。そして、妙に浮かれて楽しそうだ。…こっちが疲れてしまう
くらいに。
…ホラ、偉そうに 「作ってあげるね」 などと ほざいておきながら、もう 「うまく卵が割れな
かった」 と泣きベソをかいている。…それでも無視して放っておくと、最後には 「もうっ!
手伝おうか、とか 言ってくれないの ?!」 とオレを責める。
あぁ。…彼女が この部屋に居付いてから、これで何百回目のため息だろう。
「どけ。…テーブルで待ってろ」
「はぁい」
返事だけは多少 素直になった。
オレは リリカの分とオレの分の目玉焼きを作り、テーブルに2枚の湯気の立つプレートを
置いた。
「ミヤP、コーヒー 熱くって飲めないの。冷蔵庫からミルク取って」
「………オレは お前の小間使いか」
「あっ ごめんなさいっ」
慌てて パタパタと駆けてゆく。
「…その せわしない足音も何とかならないか?もっと静かに動け」
「はぁい。…ごめんなさい」
もしも彼女に ネコの耳が付いていたら、途端にしゅんと その耳が下がる瞬間だ。
表情が豊かで、しかも感情が全部 丸判り。
テーブルに向かい合って座り、初めて2人きり、朝食を摂った。
「………何か、ドラマみたいだよね」
オレはリリカの言葉に 視線だけを投げる。
「───…綺麗なお部屋、窓から差し込む春の太陽、目玉焼き、トースト、苺ジャム!」
最後の苺ジャムが、オレのカンに障った。
「…ジャムなんか買わないからな。…絶対に」
「あん、そういう意味じゃないよっ!想像だよ 想像!ドラマの世界を 今あたしの頭の中で
想像してるの!」
「ヘェ」
「…そっけない!ドラマだったら ここは普通、お揃いのパジャマでね、色はブルーとピンクで
ね、ストライプでねっ、ダンナさんは 髪に寝グセが…」
「 ?! 」
オレの露骨に歪めた眉根は、「ダンナさんだと ?!」 と抗議していたに違いない。
…またリリカが 無い耳をシュンと下げる。
「───…ちょっと 新婚気分をイメージしてみだけだもんっ…、だってこのお部屋、すっごく
綺麗でステキだもんっ、…あたし将来 結婚したら、こんなお部屋で暮らしたいな」
「勝手にしてくれ。…だが いちいち口に出すな。」
「何でよ ?!」
「不愉快だ」
「……………………。」
今度こそ リリカは、今にも その両目いっぱいに零れ落ちそうな涙を浮かべるのでは、と
ハラハラさせるような表情で うつむいた。
─────…全くもう。…疲れる。

「ミヤP、今日の予定は?」
「特にない」
「 ! じゃあ一日 一緒に居られるんだ!」
「……………あぁ。非常に不本意だがな」
オレは食後、再び ベッドに仰向けになり、眩しい朝の陽射しの中、両手の甲で 目元を
覆った。
「…また寝ちゃうの?」
「さぁな…もう話しかけるな」
とにかくリリカに ペースを乱されたくなかった。…一週間 フルに働き詰めで、睡眠時間も
短くて。ようやく訪れた日曜日なのだから。
なのに このガキは、見事に オレの気に障る事ばかり思いつく。
「じゃあ、あたしも もう一回寝ちゃお!」
「 ッ ?! 」
いきなり ベッドにダイブしてきて、オレの腹の上に覆い被さる。
「おい ?!」
ホントにネコだ。
「どけ、邪魔だ。…お前はそっちで TV観るか 大人しくインターネットでもやってろ」
「えー?ヤだっ、つまんないよ、せっかくミヤPが居るのにっ。ミヤPが寝るならあたしも寝るっ」
「じゃあ そっちのカウチで寝ろ!オレのプライベートの邪魔はするな」
「……………邪魔しないから………、」
思い切り寝返りを打って リリカに背を向けると、シーツに ペタンと膝頭をくっつけて座り込ん
でいたあいつは、ひどい落胆ぶりで オレの背に向かって そうつぶやいた。
オレはもう それを無視した。
「─────………。」
肩甲骨の付け根辺りに、何かが コツンと触れた。
確認しなくても判る。リリカのおでこだ。
さすがに オレの身体に腕を回してくる勇気は無いらしい。いい心構えだ、もしも今 それを
してきたら、本気で つまみ出してやるところだった。
オレは頭に昇った血液をなだめるように 数度ゆっくりと深い呼吸をし、そのまま目を閉じ
た。

 やっとリリカも静かになってくれた。
─────もちろん、再び眠りに落ちるつもりなど なかった。こいつが静かで 動かない時
だけ、オレは自分のペースを取り戻せる。だから 寝たフリをしただけ。
「……………………。」
もう4日。…いつまでリリカは ここに居るつもりなのか。
その事を考えると 苛立ちがつのるばかりだから、極力 思考から追い出し続けてきた今週
だったけれど、来週もか ? !と思うと 気が遠くなりそうだ。
うんざりする。いつもの倍以上疲れた ここ数日間だった。
それから、もう一つ。
リリカに関して、気になっている事がある。
彼女は時折、何とも言えない瞳で オレを見上げてくるから。
そんな潤んだような瞳を見せ付けられた時だけ オレは、彼女が 『女』 なのだと思い出す。
ペットのネコでも小学生でもなく。
─────まるで最愛の恋人に向けるような、切なく揺れる あの眼差しだ。
夜も、オレが帰宅してからも あいつを放ってパソコン画面に向かい、持って帰った仕事や
調べ物に夢中になっている時など、ふと あまりにも彼女が静かな事に気付いて、視線を
リリカに向ける事がある。
そんな時 決まって、オレとリリカは目が合う。
………つまり 彼女のほうは、オレがそちらを見やる前から オレのほうを見つめていた、と
いう事だ。
その瞬間の視線が、…どういうのか………。言葉に出来ないような、いじらしい視線。
もちろん、コンマ一秒後には 彼女はどこかオレじゃない別の場所に 視線を逸らしてしま
う。たちまち切ない空気は霧散して、いつものやっかい者な 子供の表情に早変わりする
リリカ。
「………まさかな………。」
オレは元来、他人に あまり興味を持てるタイプじゃない。
だから、他人が自分をどう見ているか、どんな感情を抱いて 接してきているのかについて
など、知った事じゃない。オレは オレのしたいようにするだけだ。
だから 相手に気遣うという事も、プライベートでは有り得ない。気に入らない奴は去って
いけばいいし、オレも自分を曲げない。
けれど………。
─────もしも。
もしもリリカが ここに再びやって来た理由が、彼女の言ったような 「どこにも行く場所が
無い」 という理由じゃなく………。
こう考えるのは うぬぼれている以外に無いかも知れないが、「ここに居たいから」 だった
なら………。
だったとしたら、リリカはホントに いつかちゃんとここを出て行くのか ?! このまま延々と 適当
な理由を並べて ここに居続けるつもりじゃないだろうな、まさか。
「─────………。」
ダメだ、考えるほど 気分が悪くなってきた。
オレが。…まさかと思うが この 他人のペースにだけは巻き込まれる事など有り得ないと
自負しているオレのほうこそが。…リリカのペースに ハマっているとしたら ?!
「…バカな。…有り得んだろ…」
ふう、と また大きなため息が漏れた。
静かに背後を振り返ると、閉じられたままの長いまつ毛が そこにあった。
手足を縮め、いつのまにか微動だにしない 寝顔。
頬に、彼女の長い髪が いく筋か掛かっていた。薄く開いた唇。胸の辺りで握られている
二つの拳。
─────TVの向こうの 人気アイドル・リリカ。

それが 何で今、オレのベッドで眠ってるんだ… ?!


 「ミヤP、あたし ここに来てから太ってないかな、大丈夫だと思う ?!」
「─────…。知らん。どうでもいい」
「ひっどォーいっ、やだな、太っちゃったら」
「………なら 食うな。」
「あっ、そういう意味じゃないのっ、…ごめんなさい」
彼女はもう それ以上 余計な口は利かずに。大人しく夕食を口にした。週末にデパート
で買って来ていた 輸入もののデリカを温めた食事。
「…今夜の生出演ゲストは、リリカちゃんだったんですが…」
何気なく 間を持たせるためだけにつけているTVの画面。男性タレントが、リリカが 急な
病気で今夜のゲストとして出演出来ない旨を 申し訳無さそうに伝えていた。
「─────…お前、仕事放り出して 事務所から連絡ないのか?」
「…………。ケータイ取りたくないから ずっと電源切ってる…もう電池も切れちゃった…」
またリリカが オレの尋問みたいな問いに うなだれた肩を落とす。
「お前、病気って事になってるのか、今。」
彼女はうなだれたまま 頷いた。
「…何か、緊急入院だって………。ワイドショーで言ってた」
そうか。そりゃ そうだろうな。まさか 失踪してます、行方不明です、なんて事務所も言える
訳がない。
「だけど…ひょっとしたら 極秘捜査は始まってるかもな。」
「えっ…?」
「警察。…動き出してるかもな。」
「─────………、」
「…もしもお前が ここで見つかったら、オレ 拉致監禁の現行犯で 捕まるのかな」
「そんな…ッ!そんな事させないよっ、あっ、あたし ちゃんと説明するもん…っ、ミヤPには
迷惑掛けない…!」
「……………………。」
食事する手を止め、オレはしばらく無言で ジッと冷たく見つめてやった。ますます慌てて
うろたえ始めるリリカ。
「あの…っ、…ホント、えっと、絶対に ミヤPには迷惑掛けないようにする…っ、マスコミ
にもおかしな報道はさせないし、ミヤPの会社とか 絶対に知られないようにするし…っ、」
「……………………。」
「えっと えっと………っ、」
この反応…!さすがにオレは、知らず小さく 苦笑してしまっていたらしい。
「 ! 」
途端にリリカが 真っ赤になった。
「………?」
オレはその反応に 首を傾げる。
もうリリカは オレの目を見る事が出来なかった。
揺れる視線は定まらず、落ち着きを失くして ますます取り乱してしまう。
オレはその原因が自分だとは まさか思い付きもしなくて。
「………どうした…?お前ヘンだぞ…?」
そう言いながら テーブルごしにやや身を乗り出し、尚も リリカの顔を覗き込んだ。
無意識に 彼女に向かって伸ばしかけた手を、リリカが思い切り 払う。
「 ?! 」
ハッと我に帰った目の前の 弾かれたような瞳は、少しの間を置いて、たちまち あの独特
の感じに変わった。
─────…切ないような、何かを堪えているような 眼差しに。
「……………………、」
「─────…ミヤP、今 初めて微笑ったよ…?…っあたし………っ…、困るよ…」
ますます眉を苦しげに寄せ、うつむく彼女。首から上は、いたたまれないほど 真っ赤だ。
オレも もう、こんなカオを見せられて こんな風に反応されて。さすがに 気付かないほど
鈍感じゃない。
─────どうしようか。
初めて、次に掛けるべき言葉を オレは迷った。
「だけど ずっと事務所に連絡しない訳にもいかないだろう…?」
オレとした事が。もっと直接的に言って こいつを傷つける事も出来たのに、敢えて 遠回し
で ソフトな表現を選んでしまった。
「………分かってる…、ミヤPに迷惑 掛けてる事も…っ、あたしに 出て行って欲しいと
思ってる事も…。ご、ごめんなさい………」
『いつ出て行くんだ?』 とは訊かなかったのに、彼女には、オレの歯に衣着せた表現は
ちゃんと届いたようだった。
「─────…も、もうちょっとだけ…っ、お願い 居させて………っ、お願いします…」
オレは今日十数回目の 深いため息をついた。その様子に、リリカはますます小さくなった。
「もうちょっとじゃなくて、具体的な日数を言え。…いつまで ここに居る気だ?」
…あぁ、しまった。
案の定、彼女は今度こそ、食事もそのままに 堪えきれず泣きだしてしまった。
「………おい、…泣くな、」
「ごめ…っ、………ごめんなさい………ひっ…、っく…っ、」
─────とにかく、参る。
せっかくの日曜も、余計に疲れがたまる日曜でしか なかった。
「─────………。リリカ、」
出来るだけ刺激しないように、そっと 彼女の名を呼んだ。
大粒の涙は 彼女の頬や顎を伝い、ポタポタとテーブルの天板を濡らした。
「───…明日………、明日出て行く…、から…っ…、」
涙にくぐもった声。
「………ホントだな?」
両目を 涙に濡れた手で覆ったまま、彼女は頷いた。
分かってる、こんな時 女がどうして欲しいかくらい。今、彼女がオレに 何て言葉を掛けて
欲しいかくらい。
だけどオレは、敢えて そうしない。
「…よし、じゃあ もう泣くのはやめろ。…今は食事中だ。ちゃんと残さず 最後まで食え」
席を立たず、真正面から その泣き顔に向かって無味乾燥に用件だけを告げた。リリカは
まだ目を両手で覆いながら、無言で何度も頷いた。


─────今度こそ、最後の夜。
オレが先にシャワーを使い、続いてリリカがシャワーを使い、ベッドサイドの灯かりを暗くする。
「………今まで かくまってくれて、本当にありがとう…」
しおらしいセリフを しおらしい声がつぶやいた。
彼女の声は、今までオレが聞いた中で一番落ち着いていて、低い声だった。
オレは返事をしなかった。…もう聞こえてないフリをして、目を閉じた。
仰向けに寝ているオレの左腕に、リリカの横向きになっている腕が 当たっていた。
いつもなら、このまま オレに腕を回してきて。オレに額をすり寄せるみたいにして 彼女は
眠りに落ちる。
「………明日 あたしがここを出たら、ミヤPと会う事、きっともう これから先 一生ないん
だよね………、」
「─────………、」
そんな言葉を 寂しくつぶやかれるから、オレは まぶたを開くしかなかった。
視線だけを すぐ横に流す。
彼女もこちらを まっすぐに見ていた。
眼鏡を外していても、この距離ならば 十分彼女の顔ははっきり見えた。
「………灯かり落とすぞ、もう寝ろ」
オレは僅かに上体を浮かせ、ベッド脇のランプに腕を伸ばす。
その背中に向かって、彼女がまた つぶやいた。…いや、つぶやきじゃない。今度の声は
余裕を無くした 小さな叫びだった。
「ねぇ…っ、最後なら あたしに思い出をちょうだい…!」
オレの、スイッチに届きかけた手が止まる。
起こした肩越しに 後ろを見た。
………瞳は 本気の色をたたえて揺れていていた。
リリカも すがるように状態を浮かせる。
「ミヤP、好きなの…、」
震えている声。
「───…あたしの初めてを もらってよ…!」
「─────………、」

参った、つくづく参った。最後の最後まで こんなどんでん返しを仕掛けてくるのか。
オレは 今日2度目、彼女に何て返事をしたらいいのかと 迷った。
★甘栗のちゃちゃ。
累:うわお!大胆な展開!(ビックリ)
ちいちゃん:お前ならどーする?この展開
累:うーん、…おいしいのでいっとく
ちいちゃん:う。
累:何だよ?
ちいちゃん:同じ答えか…嫌だなぁ
累:(爆)男で違う答えの奴なんているの
ちいちゃん:ユキとかいきそうにないからさ。みずほなんて「ちょっとそこに正座しろ!」って説教
    始めそうだしさ。…じゃあお前ならこのあとなんて答える?
累:「オレでよければ遠慮なく」
ちいちゃん:うぐ。(また答えがかぶった…ヤバ(^_^;))

「オレ様とプリンセス」−5    Written by; Tamaco Akitsushima