9 夜の優しさ。
「───…っ…、………、」
彼女は何度も 静かな涙をこぼした。
彼はもう それ以上、何も言わなかった。
雅臣の指先が肌を辿るたび、時折 彼女はビクリとたじろいだ。脇を滑り降り、腰を撫でる
手のひら。その後を追う唇、舌先。柔らかな髪も、彼の指は何度もかき上げてやる。視線
が交わりあうたび、ゆうは 何かを言いたげに瞳を揺らした。
やはり たまらなく綺麗だ。
濁りなく透き通る、澄んだ瞳も頬も。
最初はほんの少し、ついばむように 唇でその肌に触れた。けれども次第に、大きなうねり
にも似た何かに 揺さぶられ始める。
こんな感情の変化も、彼にとっては 全く予想外の事だった。
彼女は今も、彼にすがるような腕を回していて。細い上腕の内側にも キスをする。折れ
そうな腰、まだ少年っぽいような雰囲気を残した 未発達な腰骨。
何だか その全てが、触れているにも拘らず希薄な存在感を漂わせ、彼を不思議な感覚
に陥れる。
けれど 無垢な白磁の肌は、彼に その先を躊躇させた。なぜなら ゆうの身体は、とても
欲情しているとは思えなかったから。
「───…お前…、少しは感じてるのか?」
「……………、分かんない…、でも嬉しいよ…?」
彼は 彼女の手ごたえのなさに、やっぱり この状態で最後までは無理なのでは、と思う。
彼女の太腿に手をかけると、ゆうは身を硬くする。
考えながらも、その内側に舌を這わせると、途端に彼女は 短く叫んだ。
「きゃあ!」
彼のほうが その声に驚く。
右側の足首を掴むと 激しく抵抗された。
「やっ、やだ 何するの…っ!」
「何って…、お前の感じるところを 探してやろうと思って」
「だからって…、そっ…そんなとこ…っ、」
ゆうは真っ赤だ。
「…ここは?───…少しはいいのか?」
「やぁ…っん…!」
太腿の内側、やや窪んだところに沿って 舌先を滑らされ、彼女は腰をしならせた。
「───…けど、まだ 全然だな」
「い、嫌、見ちゃだめ…っ、」
下肢の付け根を 慌てた仕草で隠そうとするから、彼の右手は 彼女の両手首を纏めて
締め上げる。
「やだぁっ…、ミヤビ… !!」
「暴れるな」
「だって…っ、やっぱ 恥ずかしいもん…!」
「じゃあ やめるのか」
「───…っ、…っやめない…、」
「どっちだ、今決めろ」
「……………、」
彼女の唇が 僅かにわななく。そして凍えるような声で告げた。
「───…やめないで、お願い………」
その声を合図に、彼の舌は 再び脚に降りる。
「…あっ………、」
時折 引きつるように彼女の声が漏れた。
まだ それでも抵抗しようと身じろぐから、両手首の自由は奪ったまま。しばらくそこを丹念に
舐めて、徐々に 彼女の身体を慣らしていく。
「やんっ…」
そっと下肢の付け根に 触れてみた。
けれども、かなり脱力したとは言え、そこは全く 目覚める気配を見せてはいなかった。
「───…ここも舐めていいのか」
「え!やっ、やだぁ そんなの…っ!」
「けど、じゃあ 出来ない」
「───…え…、どうして…っ?」
「全く 濡れてないから」
「…濡れるって………何?」
「─────………。」
彼は こめかみに痛みを感じた。
「 !! 」
そして彼女に躊躇の時間を与えないまま、そこにも 舌で触れてみる。
「い…いやぁ ミヤビ !! やめて…!やめてよ お願い…っ…、」
弾かれたように暴れ出す肢体。何とか その舌から逃れようと、上ずる肩。けれども彼は
それ以上 彼女が上ずる事を許さず、右手で手首を引いたまま、尚も それを続けた。
ゆうは喉の奥を震わせ、顎を反らせた。両肩に力を入れたまま、耐え続けている。
「こ、こんな事…っ、ひ…どいよ…っ、ミヤビ…っ、」
彼は 彼女を熱くほだしながら、心の中で 「酷いのはどっちだ?!」 と毒づいていた。
行為についてロクに知りもせずに セックスをねだるな、と。
やっぱり彼女は とんでもなく子供だ。
未発達な身体つきも、心も。
入り口を指先で押し開いても、そこは とても期が熟しているとは思えなかった。このまま
無理やり押し入ったら、彼女の細くて頼りない腰は 粉々に壊れてしまいそうだ。
「無理だな…、」
聞こえてないと思っていたのに、彼の頭上のほうで 焦りの声が返ってくる。
「えっ…、い、イヤだっ…、して…!お願い、」
「無理だろう」
「そんな…っ、やだ、そんな事 言わないで…っ、あたし痛くても我慢するから…、大丈夫
だから」
「何 言ってるんだ…」
「どうして無理なの…っ ?! じゃあ あたしどうしてればいい…っ ?!」
「─────………。」
彼は彼女を見下ろしながら 改めて思う。
すごく透明で、透き通っていて。今も、薄く白い肌の下、血管が ライトを反射して浮かび
上がりそうなほど 儚い。
───…彼女は、綺麗だ。
この神聖な透明感が、自分と繋がる事によって 失われてしまうんじゃないだろうか。
この世の生き物じゃないみたいな、妖精みたいな 彼女のカリスマ性が───…俗っぽさに
まみれて くすんでしまうんじゃないだろうか。
内側から溢れ出しているきらめきが、繋がった瞬間、灯かりを落としたように
しぼんでしまう
のではないだろうか。全てが色あせてしまいはしないか。
雅臣は心の中だけで決める。………やはり、今夜 彼女を奪えない。
「…何とか言って…ミヤビ………」
不安げに揺れている瞳は、今も こちらを見てくる。
「───…お前にはいつか、オレじゃなく ちゃんと別の奴が現れる」
「え………?」
彼の指が そこを探るように分け入る。中には入らずに、その周辺を。
「 ッ!」
ゆうの肩が ビクリと震える。
彼は 探り当てたその箇所を 人差し指で押し潰すようにして撫でた。
「───…ッ、あ…っ」
雅臣の右手は、彼女の両手首を自由にする。…代わりに 彼女の喉元を押さえつける
ように捉えたかと思うと、口唇付けた。
戸惑いながらも 彼の手首に指を絡め、キスに応えるゆう。伏せられたまぶたが
僅かに
震える。キスは どんどん深くなる。
しばらく彼が 指でそこをそうしていると 彼女のそこは深い深い眠りから揺さぶり起こされた
ように目覚め始めた。
うっとりと 夢の中へ引き込むようなキスを与えながら、彼は 彼女の舌を絡めとった。ザラ
つきが重なり、体温が重なり合う。ゆうは今も 緊張に肩をこわばらせながら、けれど
じっと
耐えていた。やがて 否が応でも腰の辺りからこわばりは抜け落ちてゆき、どうにもならない
ほど そこから四肢が隅まで溶かされてゆく。
同時に唇から与えられる刺激は、脳のてっぺんを 痺れるほど引き絞った。舌の根を強く
吸われるたび、意識が飛びそうになる。
「───…ッ…、───…、」
やや苦しげに眉間が寄せられるのを、彼は キスを続けながら眺めた。それは余りに
切なく
誘うような表情で、男の中の何かを焚き付けるには 十分すぎた。
そのうち ゆうの吐息は浅く乱れ始める。
ますます苦しげに 眉根は寄せられた。
上気した バラ色の頬。明らかに先ほどまでとは違う彼女が その表情の隙間から見え隠れ
し始める。
呼吸に上下する胸、身動ぎ浮く 膝。足先が シーツの波を掻く。
彼は 彼女に吐息一つ漏らす隙も与えないまま、口内を翻弄した。吹雪のように 体内は
激しくざわめき立ち、木の葉が舞う。それが 今までに知らない感覚だったので、ますます
ゆうはうろたえる。
怖いのか、知らず彼の手首を強く握り締めて。食い込んでいる爪。
それでも雅臣は そんな彼女の戸惑いを無視して どんどんその心と身体を 高みへと追い
詰めた。
生まれて初めて知る、濃厚な花の香りに包まれて むせかえるような快感の嵐は、彼女の
まぶたの裏を赤く染めた。ここがどこなのか、どちらが天地なのか、それさえも判らないほど
に乱されてゆく。重力をなくして 浮遊する意識。けれど 裏腹なほどに強い存在感で自分
を掻き抱く 腕。触れ合っている肌は とてつもなく暖かく、繋がっている唇も、とてつもなく
熱い。
「………ッ !!」
にわかに大きく 彼女は仰け反り、何が起こったのか判らないまま その場に投げ出された
ような感覚を受けた。
遠くまで飛ばされかけた意識は、何とか すんでのところでこの場所に踏みとどまる。
「ミヤビ………、」
思い切り強く掻き抱かれ、一気に体内で 熱い何かが満たされてゆくのが判る。
この感覚が何なのか 全く分からず、けれど とんでもなく心地いい湯船に浸かるような…
波紋が胸の中心から拡がってゆくような。
そんな温もりの中で、ただ漠然と思う。今、確かに 自分は独りじゃないと。
胸を支配していた孤独の穴は もう今はない。
そう認識した途端、切なさと愛しさが ないまぜになって押し寄せてくる。
─────けどミヤビ…、してくれなかった───…。
さっきあたしに 何て言ったの…?
“───…お前には いつか、オレじゃなく ちゃんと別の奴が現れる”
そう言わなかった…?
「…あたしじゃ…ダメ…?───…どうしても…して…くれないの…?」
全力疾走して ゴールを切った後のように、彼女は荒く 肩で息をして。ゆうは
すぐそばの
彼をぼんやりと見上げた。
雅臣は微笑ってはいない。感情の見えない表情のまま、彼の瞳も 彼女をみつめていた。眼鏡ごしではない、彼の深い瞳。
今、再び目を閉じてしまったら 背中から一気に眠りの縁へと吸い込まれるように落ちて
ゆく─────、ダメ、明日になったら…今度こそ ミヤビとお別れなのに…。もっと彼の
顔を見つめていたい…もっとキスして欲しい…。だからダメ…意識を手放しちゃダメ…。
それが判っていながら ゆうはもう まぶたを開けていられなかった。
瞬く間に意識を手放してしまった 長いまつ毛。───…桜色した頬、薄く開かれている
唇。
「─────………。」
彼は身を起こし、彼女を 改めて眺めた。
もう死んだように動かない 手足。白い首筋、鎖骨。
「………ゆう………」
何となく 彼女の名をつぶやきながら、彼は はだけて乱れたままの彼女の白いバスローブを
掻き合わせ、そっとベッドを抜けると アッパーシーツを掛けてやった。
そして一つ 大きくため息をつくと、うるさげに前髪をかき上げながら立ち上がり、廊下を抜け
て バスルームのドアを開けた。…再びシャワーして この全身に纏わり付いている砂糖菓子
のような空気を 流してしまいたかった。
頭から 熱い湯をかぶり、壁に手を突く。
「……………………、参ったな…」
全く 何をしているんだか。
余りに自分らしくなくて、また ため息が漏れた。
彼女に関しては、気がつけばペースを乱している自分が居た。
こんな事、本当に…初めてだった。
けれど、彼女を汚してしまうような気がして。どうしても彼女を あのまま抱く事が出来ず
に。今、何とか押し留まった自分に対して、驚き呆れている自分が居る。
いつの間にか、彼女の魅力に 取り込まれていた。
途中から彼女は、幼い子供などでは なくなっていた。
その事実にも驚愕するし、やはり こんなはずではなかったのだ。
「どうしたっていうんだ………」
自分自身に問い掛ける。知らず額に手をやる。
閉じたまぶたの裏側に、今も ゆうの悩ましげに揺れる瞳が はっきりと焼き付いていた。
すがるような、潤んだ瞳…寄せられた眉。
彼女の 未発達で中途半端な、…そして中性的な肢体。あまりにも性的な刺激を知ら
なさすぎて、沈殿したままだった彼女の 性感。生まれたての雛の羽みたいな肌も
頼り
なさすぎて、触れただけで壊しそうで。
踏み込めば、何もかもが なし崩しに消えてなくなってしまいそうだった。
だから 手を出せなかった。
ずっと 彼女を聖域に置いておきたかった。
─────ゆうを抱くのは、彼女をこの先 ずっと守る男のほうがいい。
たった一晩、一度きりの相手なんて、彼女にとっても虚しいだけだ。しかも その体験が
彼女の透明な輝きを奪う事になってしまったならば、自分にとっても 後味が悪い。
上腕や首筋や。今も 色んな箇所に、彼女の甘い香りが濡れて張り付いた花びらのよう
に 消えず残っていた。彼は 水しぶきの中、その事実に舌打ちしていた。
再び 彼が髪を拭きながらベッドサイドに戻ると、さっきのままの位置で ゆうはすっかり夢の
中だった。
身動ぎ一つしないその顔は、人形のように見えた。フワリと四方に広がった髪。彼の指先
は その髪をそっと撫でて、シーツの上に 彼のためのスペースを作る。
ゆうは全く動かない。呼吸さえ忘れてしまったように。
時が止まって見える。
ベッドの縁に腰掛けて、そんな彼女の寝顔を眺める。まるで 100年眠り続けているような、
そんな 無垢なまつ毛。
明日になれば、赤の他人。
明日になれば、もう一生 会うことのない二人。
雅臣はガラにもなく、彼女の未来に どうか幸せが待つ事を───…、彼女の未来に
一日も早く 守り手が現れることを祈った。
そっと額に手を乗せると、ほんのりと暖かい。…彼女の体温、彼女の甘い香り。
そのまま、唇を重ねる。
ゆうを起こさないように、慎重に。
それは触れるだけの、ささやかで 短いキス。
彼女の未来に幸あれ、と。祈りを込めた、彼しか知らない 最上のキス。
夜は優しく、深く静かに この部屋をしっとりと包み込んでいた。
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★甘栗のちゃちゃ。
ちいちゃん:うぎゃぎゃぎゃ〜〜!
累:フフフ(笑)。
ちいちゃん:で、でもっ!イってるし!これってえっちアリだろ〜?!
累:またそんな屁理屈を…。本番してないからえっちナシだよ
ちいちゃん:いや違うっ、これだけ色んな事してたらえっちアリだ!!
累:往生際が悪いな、えっちナシだよ。
ちいちゃん:う〜〜!ミヤP!男なら最後まで貫き通せ!!バカヤロ〜〜!
累:貫き通せって…(^_^;)やめようよ健全な読者のかたもいらん想像力を働かせるじゃん〜
ちいちゃん:次回!『ミヤPは今度こそ貫き通す!』のほうにケンタファミリーパック!!
累:墓穴だって(笑)。オレはうれし〜けどv 彼女も呼んじゃお |
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「オレ様とプリンセス」−9 Written by; Tamaco Akitsushima |
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